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标题:[推荐]万葉集(日文)
安倍晴冰
帅哥哟,离线,有人找我吗?
  
身份:领民
言论:12
入籍:2006年11月5日
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[推荐]万葉集(日文)

訓読万葉集 巻1 ―鹿持雅澄『萬葉集古義』による―


巻第一ひとまきにあたるまき

雑歌くさぐさのうた

泊瀬はつせの朝倉の宮にあめの下しろしめしし天皇すめらみことみよ

天皇のみよみませる御製歌おほみうた

0001 もよ み籠持ち 堀串ふくしもよ み堀串持ち    この丘に 菜摘ます子 家らせ 名のらさね    そらみつ 大和の国は おしなべて あれこそ居れ    しきなべて あれこそせ をこそ とは告らめ* 家をも名をも

高市の崗本の宮に天の下しろしめしし天皇の代

天皇の香具山に登りまして望国くにみしたまへる時にみよみませる御製歌おほみうた

0002 大和には 群山むらやまあれど とりよろふ あめの香具山    登り立ち 国見をすれば 国原は けぶり立ち立つ    海原は かまめ立ち立つ うまし国ぞ 蜻蛉島あきつしま 大和の国は

天皇の宇智の*遊猟みかりしたまへる時、中皇命なかちひめみこ間人連老はしひとのむらじおゆをして献らせたまふ歌

0003 やすみしし 我が大王おほきみの あしたには 取り撫でたまひ    夕へには いり立たしし みらしの 梓の弓の    鳴弭なりはず* 音すなり 朝猟あさがりに 今立たすらし    夕猟ゆふがりに 今立たすらし み執らしの 梓の弓の 鳴弭の*音すなり

かへし歌

0004 玉きはる宇智の大野に馬めて朝踏ますらむその草深野

讃岐国安益郡あやのこほりいでませる時、軍王いくさのおほきみの山を見てよみたまへる歌

0005 霞立つ 長き春日はるひの 暮れにける きも知らず    むらきもの 心を痛み 鵺子鳥ぬえことり うられば    玉たすき 懸けのよろしく 遠つ神 我が大王おほきみの    行幸いでましの 山越しの風の 独りる 衣手ころもてに    朝宵に 還らひぬれば 大夫ますらをと 思へるあれも    草枕 旅にしあれば 思ひる たづきを知らに    綱の浦の* 海人処女あまをとめらが 焼く塩の 思ひぞ焼くる 下情したごころ

反し歌

0006 山越しの風を時じみる夜おちず家なる妹を懸けてしぬひつ

右、日本書紀ヲカムガフルニ、讃岐国ニ幸スコト無シ。亦軍王ハツマビラカナラズ。但シ山上憶良大夫ガ類聚歌林ニ曰ク、紀ニ曰ク、天皇十一年己亥冬十二月己巳朔壬午、伊豫ノ温湯ノ宮ニ幸セリト云ヘリ。一書ニ云ク、是ノ時宮ノ前ニ二ノ樹木在リ。此ノ二ノ樹ニ斑鳩イカルガ比米シメ二ノ鳥、大ニ集マレリ。時ニミコトノリシテ多ク稲穂ヲ掛ケテ之ヲ養ヒタマフ。乃チ作メル歌ト云ヘリ。若疑ケダシ此便ヨリ幸セルカ。

明日香の川原の宮に天の下しろしめしし天皇の代

額田王の歌

0007 秋の野のみ草苅り葺き宿れりし宇治の宮処みやこ仮廬かりいほし思ほゆ

右、山上憶良大夫ガ類聚歌林ヲカムガフルニ曰ク、書ニ曰ク、戊申ノ年比良ノ宮ニ幸ス大御歌ナリ。但シ紀ニ曰ク、五年春正月己卯ノ朔ノ辛巳、天皇、紀ノ温湯ヨリ至リマス。三月戊寅ノ朔、天皇吉野ノ宮ニ幸シテ肆宴ス。庚辰、天皇近江ノ平浦ニ幸ス。

後の崗本の宮に天の下しろしめしし天皇の代

額田王の歌

0008 熟田津にきたづふな乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎてな

右、山上憶良大夫ガ類聚歌林ヲ検フルニ曰ク、飛鳥ノ岡本宮ニ御宇シシ天皇元年己丑、九年丁酉十二月己巳ノ朔ノ壬午、天皇太后、伊豫ノ湯ノ宮ニ幸ス。後ノ岡本宮ニ馭宇シシ天皇七年辛酉ノ春正月丁酉ノ朔ノ壬寅、御船西ニ征キテ、始メテ海路ニ就ク。庚戌、御船伊豫ノ熟田津ノ石湯行宮ニ泊ツ。天皇、昔日ヨリ猶存レル物ヲ御覧シ、当時忽チ感愛ノ情ヲ起シタマヒキ。所以因ソヱニ歌詠ヲ製マシテ為ニ哀傷シミタマフ。即チ此ノ歌ハ天皇ノ御製ナリ。但額田王ノ歌ハ、コトニ四首有リ。

紀の温泉に幸せる時、額田王のよみたまへる歌

0009 三諸みもろの山見つつゆけ*我が背子がい立たしけむ厳橿いつかしが本

中皇命の紀の温泉にいませる時の御歌

0010 君が代も我が代も知らむ磐代いはしろの岡の草根をいざ結びてな

0011 我が背子は仮廬作らすかや無くば小松がもとかやを苅らさね

0012 が欲りし子島こしまは見しを底深き阿胡根あこねの浦の玉ぞひりはぬ

右、山上憶良大夫ガ類聚歌林ヲカムガフルニ曰ク、天皇ノ御製歌ト云ヘリ。

中大兄なかちおほえ三山みつやまの御歌

0013 香具山は 畝傍うねび*と 耳成みみなしと 相争ひき    神代より かくなるらし 古昔いにしへも しかなれこそ    現身うつせみも つまを 争ふらしき

反し歌

0014 香具山と耳成山とひし時立ちて見に印南いなみ国原

0015 綿津見の豊旗雲に入日さし今宵の月夜つくよきよく照りこそ

右ノ一首ノ歌、今カムガフルニ反歌ニ似ズ。但シ旧本此ノ歌ヲ以テ反歌ニ載セタリ。故レ今猶此ノ次ニ載ス。亦紀ニ曰ク、天豊財重日足姫天皇ノ先ノ四年乙巳、天皇ヲ立テテ皇太子ト為ス。

近江の大津の宮に天の下しろしめしし天皇の代

天皇の内大臣うちのおほまへつきみ藤原朝臣みことのりして、春山の万花はないろ、秋山の千葉もみちにほひ競憐あらそはしめたまふ時、額田王の歌をもちことはりたまへるその歌

0016 冬こもり 春さり来れば 鳴かざりし 鳥も来鳴きぬ    咲かざりし 花も咲けれど 山をみ 入りても聴かず    草深み 取りても見ず 秋山の 木の葉を見ては    黄葉もみつをば 取りてそしぬふ 青きをば 置きてそ嘆く    そこしたぬ* 秋山あれ

額田王の近江国に下りたまへる時よみたまへる歌

0017 味酒うまさけ 三輪の山 青丹あをによし 奈良の山の    山のゆ い隠るまて 道のくま い積もるまてに    つばらかに 見つつ行かむを しばしばも 見かむ山を    心なく 雲の 隠さふべしや

反し歌

0018 三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなむ隠さふべしや

右ノ二首ノ歌、山上憶良大夫ガ類聚歌林ニ曰ク、近江国ニ都ヲ遷ス時、三輪山ヲ御覧シテ御歌ヨミマセリ。日本書紀ニ曰ク、六年丙寅春三月辛酉朔己卯、近江ニ都ヲ遷ス。

井戸王ゐとのおほきみの即ちこたへたまへる歌

0019 綜麻形へそがたの林のさきのさ野榛ぬはりの衣に付くなす目につく我が

右ノ一首ノ歌、今按フニ和スル歌ニ似ズ。但シ旧本此ノ次ニ載セタリ。故レ以テ猶載ス。

天皇の蒲生野かまふぬ遊猟みかりしたまへる時、額田王のよみたまへる歌

0020 茜さす紫野ゆき標野ゆき野守は見ずや君が袖ふる

皇太子ひつぎのみこの答へたまへる御歌 明日香宮ニ御宇シシ天皇

0021 紫のにほへる妹を憎くあらば人妻故にあれ恋ひめやも

紀ニ曰ク、天皇七年丁卯夏五月五日、蒲生野ニ縦猟シタマフ。時ニ大皇弟諸王内臣及ビ群臣皆悉ク従ヘリ。

明日香の清御原きよみはらの宮に天の下しろしめしし天皇の代

十市皇女とほちのひめみこの伊勢の神宮おほみがみのみや参赴まゐでたまへる時、波多の横山のいはほを見て、吹黄刀自ふきのとじがよめる歌

0022 河ののゆつ磐群に草むさず常にもがもな常処女とこをとめにて

吹黄刀自ハ詳ラカナラズ。但シ紀ニ曰ク、天皇四年乙亥春二月乙亥朔丁亥、十市皇女、阿閇皇女、伊勢神宮ニ参赴タマヘリ。

麻續王をみのおほきみの伊勢国伊良虞いらごの島にはなたへたまひし時、の人の哀傷かなしみよめる歌

0023 打麻うつそを麻續の王海人なれや伊良虞が島の玉藻苅ります

麻續王のこの歌を聞かして感傷かなしみ和へたまへる歌

0024 うつせみの命を惜しみ波に湿で伊良虞の島の玉藻苅り

右、日本紀ヲ案フルニ曰ク、天皇四年乙亥夏四月戊戌ノ朔乙卯、三品麻續王、罪有リテ因幡ニ流サレタマフ。一子ハ伊豆ノ島ニ流サレタマフ。一子ハ血鹿ノ島ニ流サレタマフ。是ニ伊勢国伊良虞ノ島ニ配スト云フハ、若疑後ノ人歌辞ニ縁リテ誤記セルカ。

天皇のみよみませる御製歌おほみうた

0025 み吉野の 耳我みかねたけ*に 時なくそ 雪は降りける    無くそ 雨は降りける その雪の 時なきがごと    その雨の 間なきがごと くまもおちず 思ひつつぞ来る その山道を

或ルマキノ歌、

0026 み吉野の 耳我の山に 時じくそ 雪は降るちふ     間なくそ 雨は降るちふ その雪の 時じくがごと     その雨の 間なきがごと 隈もおちず 思ひつつぞ来る その山道を

右、句々相換レリ。此ニ因テ重テ載タリ。

天皇の吉野の宮に幸せる時にみよみませる御製歌おほみうた

0027 淑き人の良しと吉く見て好しと言ひし芳野吉く見よ良き人よく見

紀ニ曰ク、八年己卯五月庚辰朔甲申、吉野宮ニ幸ス。

藤原の宮に天の下しろしめしし天皇の代

天皇のみよみませる御製歌おほみうた

0028 春過ぎて夏来るらし白布しろたへの衣乾したり天の香具山

近江の荒れたる都をく時、柿本朝臣人麿がよめる歌

0029 玉たすき 畝傍うねびの山の 橿原の ひしりの御代よ    れましし 神のことごと つがの木の いや継ぎ嗣ぎに    天の下 知ろしめししを そらみつ 大和を置きて    青丹よし 奈良山越えて いかさまに 思ほしけめか    天離あまざかる ひなにはあらねど* 石走いはばしる 淡海あふみの国の    楽浪ささなみの 大津の宮に 天の下 知ろしめしけむ    天皇すめろぎの 神のみことの 大宮は ここと聞けども    大殿は ここと言へども 霞立つ 春日かれる    夏草か 繁くなりぬる ももしきの 大宮処おほみやどころ 見れば悲しも

反し歌

0030 楽浪の志賀の辛崎からさきさきくあれど大宮ひとの船待ちかねつ

0031 楽浪の志賀の大曲おほわだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも

高市連黒人たけちのむらじくろひとが近江のみやこれたるを感傷しみよめる歌

0032 古の人に我あれや楽浪の古き都を見れば悲しき

0033 楽浪の国つ御神のうらさびて荒れたる都見れば悲しも

紀伊国に幸せる時、川島皇子のよみませるみうた 或ルヒト云ク、山上臣憶良ガ作

0034 白波の浜松が枝の手向たむけぐさ幾代まてにか年の経ぬらむ

日本紀ニ曰ク、朱鳥四年庚寅秋九月、天皇紀伊国ニ幸ス。

の山を越えたまふ時、阿閇皇女あべのひめみこのよみませる御歌

0035 これやこの大和にしてはが恋ふる紀路にありちふ名に負ふ勢の山

吉野の宮に幸せる時、柿本朝臣人麿がよめる歌

0036 やすみしし 我が大王おほきみの きこしをす 天の下に    国はしも さはにあれども 山川の 清き河内かふちと    御心を 吉野の国の 花散らふ 秋津の野辺に    宮柱 太敷きせば ももしきの 大宮人は    船めて 朝川渡り 舟競ふなきほひ 夕川渡る    この川の 絶ゆることなく この山の いや高からし    落ちたぎつ 滝の宮処みやこは 見れど飽かぬかも

反し歌

0037 見れど飽かぬ吉野の川の常滑とこなめの絶ゆることなくまた還り見む

0038 やすみしし 我が大王おほきみ かむながら 神さびせすと    吉野川 たぎつ河内に 高殿を 高知りして    登り立ち 国見をすれば たたく 青垣山    山神やまつみの まつ御調みつきと    春へは 花かざし持ち 秋立てば もみちかざし    ゆふ川の 神も* 大御食おほみけに 仕へまつると    かみつ瀬に 鵜川を立て しもつ瀬に 小網さでさし渡し    山川も 依りてつかふる 神の御代みよかも

反し歌

0039 山川も依りて仕ふる神ながらたぎつ河内に船出せすかも

右、日本紀ニ曰ク、三年己丑正月、天皇吉野宮ニ幸ス。八月、吉野宮ニ幸ス。四年庚寅二月、吉野宮ニ幸ス。五月、吉野宮ニ幸ス。五年辛卯正月、吉野宮ニ幸ス。四月、吉野宮ニ幸セリトイヘリ。何月ノ従駕ニテ作ル歌ナルコトヲ詳ラカニ知ラズ。

伊勢国に幸せる時の歌

0040 嗚呼児あごの浦にふな乗りすらむ乙女らが珠裳の裾に潮満つらむか

0041 くしろ答志たふしの崎に今もかも大宮人の玉藻苅るらむ

0042 潮騒に伊良虞の島榜ぐ船に妹乗るらむか荒き島廻しまみ

右の三首みうたは、柿本朝臣人麿がみやこに留りてよめる。

0043 我が背子はいづく行くらむ沖つ藻のなばりの山を今日か越ゆらむ

右の一首ひとうたは、當麻真人麻呂たぎまのまひとまろ

0044 吾妹子わぎもこをいざ見の山を高みかも大和の見えぬ国遠みかも

右の一首は、石上いそのかみ大臣おほまへつきみ従駕おほみともつかへまつりてよめる。右、日本紀ニ曰ク、朱鳥六年壬辰春三月丙寅ノ朔戊辰、浄広肆廣瀬王等ヲ以テ、留守官ト為ス。是ニ中納言三輪朝臣高市麻呂、其ノ冠位カガフリヲ脱キテ、朝ニササゲテ、重ネテ諌メテ曰ク、農作ナリハヒノ前、車駕以テ動スベカラズ。辛未、天皇諌ニ従ハズシテ、遂ニ伊勢ニ幸シタマフ。五月乙丑朔庚午、阿胡行宮ニ御ス。

輕皇子安騎あきの野に宿りませる時、柿本朝臣人麿がよめる歌

0045 やすみしし 我が大王おほきみ 高ひかる 日の皇子みこ    かむながら 神さびせすと 太敷かす 都を置きて    隠国こもりくの 泊瀬の山は 真木立つ 荒山道を    いはが根 楚樹しもと押しなべ 坂鳥の 朝越えまして    玉蜻かぎろひ* 夕さり来れば み雪降る 安騎の大野に    旗すすき しぬに押しなべ 草枕 旅宿りせす いにしへ思ほして*

短歌みじかうた

0046 安騎の野に宿れる旅人たびとうち靡きらめやもいにしへ思ふに

0047 ま草苅る荒野にはあれど黄葉もみちばの過ぎにし君が形見とそ来し

0048 ひむかしの野にかぎろひの立つ見えて反り見すれば月かたぶきぬ

0049 日並ひなみの皇子の命の馬並めて御狩立たしし時は来向ふ

藤原の宮つくりにてる民のよめる歌

0050 やすみしし 我が大王おほきみ 高ひかる 日の皇子みこ    荒布あらたへの 藤原が上に す国を したまはむと    都宮おほみやは 高知らさむと 神ながら 思ほすなべに    天地あめつちも 依りてあれこそ 石走る 淡海あふみの国の    衣手の 田上たなかみ山の 真木さく のつまてを    物部もののふの 八十やそ宇治川に 玉藻なす 浮かべ流せれ    そを取ると 騒く御民みたみも 家忘れ 身もたな知らに    鴨じもの 水に浮き居て が作る 日の御門に    知らぬ国 依り巨勢道こせぢより 我が国は 常世にならむ    ふみ負へる あやしき亀も 新代あらたよと 泉の川に    持ち越せる 真木のつまてを もも足らず 筏に作り    のぼすらむ いそはく見れば 神ながらならし

右、日本紀ニ曰ク、朱鳥七年癸巳秋八月、藤原ノ宮地ニ幸ス。八年甲午春正月、藤原宮ニ幸ス。冬十二月庚戌ノ朔乙卯、藤原宮ニ遷リ居ス。

明日香の宮より藤原の宮に遷りしし後、志貴皇子のよみませる御歌

0051 媛女をとめの袖吹き反す明日香風都を遠みいたづらに吹く

藤原の宮の御井の歌

0052 やすみしし 我ご大王おほきみ 高ひかる 日の皇子みこ    荒布の 藤井が原に 大御門おほみかど 始めたまひて    埴安はにやすの 堤の上に あり立たし したまへば    大和の 青香具山は 日のたての 大御門に    青山と みさび立てり 畝傍の この瑞山みづやまは    日のよこの 大御門に 瑞山と 山さびいます    耳成の 青菅山あをすがやまは 背面そともの 大御門に    よろしなべ 神さび立てり 名ぐはし 吉野の山は    影面かげともの 大御門よ 雲居にそ 遠くありける    高知るや 天の御蔭 天知るや 日の御影の    水こそは 常磐ときはに有らめ 御井のま清水

短歌

0053 藤原の大宮仕へくや処女が共はともしきろかも

右の歌、作者よみひと未詳しらず

*0054 巨勢山の列列つらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を

右の一首は、坂門人足さかどのひとたり。 或ル本ノ歌、

太上天皇の紀伊国に幸せる時、調首淡海つきのおびとあふみがよめる歌

0055 麻裳あさもよし紀人羨しも真土山行き来と見らむ紀人羨しも

0056 河上の列列椿つらつらに見れども飽かず巨勢の春野は

右の一首は、春日蔵首老かすがのくらびとおゆ

二年ふたとせといふとし壬寅みづのえとら、太上天皇の参河国に幸せる時の歌

0057 引馬野ひくまぬににほふ榛原入り乱り衣にほはせ旅のしるしに

右の一首は、長忌寸奥麻呂ながのいみきおきまろ

0058 いづくにか船泊てすらむ安禮あれの崎榜ぎみ行きし棚無小舟たななしをぶね

右の一首は、高市連黒人。

0059 流らふる雪吹く風の*寒き夜に我がの君はひとりからむ

右の一首は、譽謝女王よさのおほきみ

0060 宵に逢ひてあした面無みなばりにか長き妹が廬りせりけむ

右の一首は、長皇子ながのみこ

0061 大夫ますらを幸矢さつや挟み立ち向ひ射る圓方まとかたは見るにさやけし

右の一首は、舎人娘子とねりのいらつめ従駕おほみともつかへまつりてよめる。

三野連がもろこしつかはさるる時、春日蔵首老がよめる歌

0062 大船おほぶねの対馬の渡り海中わたなかぬさ取り向けて早帰り来ね

山上臣憶良やまのへのおみおくらが、大唐もろこしに在りし時、本郷くにしぬひてよめる歌

0063 いざ子ども早日本辺やまとへに大伴の御津の浜松待ち恋ひぬらむ

慶雲きやううむ三年みとせといふとし丙午ひのえうま、難波の宮に幸せる時の歌

0064 葦辺あしへゆく鴨の羽交はがひに霜降りて寒き夕へは大和し思ほゆ

右の一首は、志貴皇子。

0065 霰打ち安良禮あられ松原住吉すみのえ弟日娘おとひをとめと見れど飽かぬかも

右の一首は、長皇子

太上天皇おほきすめらみことの難波の宮に幸せる時の歌*

0066 大伴の高師の浜の松が根をきてる夜は家し偲はゆ

右の一首は、置始東人おきそめのあづまひと

0067 旅にして物こほしきに家語いへごとも聞こえざりせば恋ひて死なまし

右の一首は、高安大島。

0068 大伴の御津の浜なる忘れ貝家なる妹を忘れて思へや

右の一首は、身人部王むとべのおほきみ

0069 草枕旅行く君と知らませば岸の黄土はにふに匂はさましを

右の一首は、清江娘子すみのえのをとめが、長皇子にたてまつれる歌。姓氏ハ詳カナラズ。

大宝だいはう元年はじめのとし辛丑かのとうし、太上天皇の吉野の宮に幸せる時の歌

0070 大和には鳴きてか来らむ呼子鳥きさの中山呼びそ越ゆなる

右の一首は、高市連黒人。

大行天皇さきのすめらみことの難波の宮に幸せる時の歌

0071 大和恋ひらえぬに心なくこのの崎にたづ鳴くべしや

右の一首は、忍坂部乙麻呂おさかべのおとまろ

0072 玉藻刈る沖へは榜がじ敷布しきたへの枕のほとり忘れかねつも

右の一首は、式部卿のりのつかさのかみ藤原宇合

0073 我妹子を早見浜風大和なるを松の樹に吹かざるなゆめ

右の一首は、長皇子。

大行天皇の吉野の宮に幸せる時の歌

0074 み吉野の山の荒風あらしの寒けくにはたや今宵もが独り寝む

右の一首は、或るひとの云はく、天皇のみよみませる御製歌おほみうた

0075 宇治間山うぢまやま朝風寒し旅にして衣貸すべき妹もあらなくに

右の一首は、長屋王

寧樂ならの宮に天の下知ろしめしし天皇の代*

和銅元年はじめのとし戊申つちのえさる天皇のみよみませる御製歌おほみうた

0076 大夫ますらをともの音すなり物部もののふ大臣おほまへつきみ楯立つらしも

御名部皇女みなべのひめみここたへ奉れる御歌

0077 吾が大王おほきみものな思ほし皇神すめかみの嗣ぎて賜へる君なけなくに

三年庚戌かのえいぬ春三月やよひ藤原の宮より寧樂の宮に遷りませる時、長屋の原に御輿みこしとどめて古郷ふるさと廻望かへりみしたまひてよみませるみうた 一書ニ云ク、飛鳥宮ヨリ藤原宮ニ遷リマセル時、*太上天皇御製ミマセリ

0078 飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば君があたりは見えずかもあらむ

藤原の京より寧樂の宮に遷りませる時の歌

0079 天皇おほきみの 御命みことかしこみ にきびにし 家を置き    隠国こもりくの 泊瀬の川に 船浮けて が行く河の    川くまの 八十隈やそくまおちず よろづたび かへり見しつつ    玉ほこの 道行き暮らし 青丹よし 奈良の都の    佐保川に い行き至りて が寝たる 衣の上よ    朝月夜づくよ さやかに見れば たへの穂に 夜の霜降り    磐床と 川のこほり ゆる夜を やすむことなく    通ひつつ 作れる家に 千代まてに まさむ君と あれも通はむ

反し歌

0080 青丹よし寧樂の家には万代にあれも通はむ忘るとふな

右の歌は、作主よみひと未詳しらず

五年いつとせといふとし壬子みづのえね夏四月うづき長田王ながたのおほきみを伊勢の斎宮いつきのみやに遣はさるる時、山辺の御井にてよめる歌

0081 山辺やまへの御井を見がてり神風かむかぜの伊勢処女をとめども相見つるかも

0082 うらさぶる心さまねし久かたの天のしぐれの流らふ見れば

0083 わたの底沖つ白波立田山いつか越えなむ妹があたり見む

右ノ二首ハ、今カムガフルニ御井ノ所ノ作ニ似ズ。若疑ケダシ当時誦セル古歌カ。

長皇子と、志貴皇子と、佐紀の宮にて倶宴うたげしたまふときの歌

0084 秋さらば今も見るごと妻恋に鹿鳴かむ山そ高野原の上

右の一首は、長皇子。


    2006-12-9 17:52:57
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    安倍晴冰
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    入籍:2006年11月5日
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    訓読万葉集 巻2 ―鹿持雅澄『萬葉集古義』による―


    巻第二ふたまきにあたるまき

    相聞したしみうた

    難波なにはの高津の宮にあめの下知ろしめしし天皇すめらみことみよ

    〔磐姫〕*皇后おほきさきの天皇をしぬばしてよみませる御歌四首よつ

    0085 君が旅行ゆき長くなりぬ山尋ね迎へか行かむ待ちにか待たむ

    右ノ一首ノ歌ハ、山上憶良臣ガ類聚歌林ニ載セタリ。古事記ニ曰ク、輕太子、輕大郎女ニタハケヌ。カレ其ノ太子、伊豫ノ湯ニ流サル。此ノ時衣通王、恋慕ニ堪ヘズシテ追ヒ徃ク時ノ歌ニ曰ク、

     0090 君がゆき日長くなりぬ山たづの迎へを行かむ待つには待たじ

    此ニ山多豆ト云ヘルハ、今ノ造木ミヤツコギ也。右ノ一首ノ歌ハ、古事記ト類聚歌林ト、説ク所同ジカラズ。歌主モ亦異レリ。レ日本紀ヲカムガフルニ曰ク、難波高津宮ニ御宇アメノシタシロシメシシ大鷦鷯オホサザキ天皇、廿二年春正月、天皇皇后ニ語リタマヒテ曰ク、八田皇女ヲメシイレテ、妃ト為サム。時ニ皇后聴シタマハズ。爰ニ天皇ミウタヨミシテ、以テ皇后ニ乞ハシタマフ、云々。三十年秋九月乙卯朔乙丑、皇后、紀伊国ニ遊行イデマシテ、熊野岬ニ到リ、其処ノ御綱葉ヲ取リテ還リタマフ。是ニ天皇、皇后ノ在サヌコトヲ伺ヒテ、八田皇女ヲ娶リテ、宮ノ中ニ納レタマフ。時ニ皇后、難波ノワタリニ到リ、天皇ノ八田皇女ヲシツト聞カシタマヒテ、大ニコレヲ恨ミタマフ、云々。亦曰ク、遠ツ飛鳥宮ニ御宇シシ雄朝嬬稚子宿禰天皇、二十三年春三月甲午朔庚子、木梨輕皇子ヲ太子ト為ス。容姿佳麗カホキラキラシ。見ル者自ラヅ。同母妹イロモ輕太娘皇女モ亦艶妙ナリ、云々。遂ニ竊ニタハケヌ。乃チ悒懐少シム。廿四年夏六月、御羮オモノノ汁リテ以テ氷ヲ作ス。天皇アヤシミタマフ。其ノ所由ユヱウラシメタマフニ、卜者マウサク、内ノ乱有ラム、盖シ親親相姦カ、云々。仍チ大娘皇女ヲ伊豫ニ移ストイヘルハ、今案ルニ、二代二時此歌ヲ見ズ。

    0086 かくばかり恋ひつつあらずは高山の磐根しきて死なましものを

    0087 在りつつも君をば待たむ打靡くが黒髪に霜の置くまでに

    或ルマキノ歌ニ曰ク

     0089 居明かして君をば待たむぬば玉のが黒髪に霜は降るとも

    右ノ一首ハ、古歌集ノ中ニ出デタリ。

    0088 秋の田の穂のに霧らふ朝霞あさかすみいづへの方にが恋やまむ

    近江の大津の宮に天の下知ろしめしし天皇の代

    天皇鏡女王かがみのおほきみに賜へる御歌おほみうた一首ひとつ

    0091 妹があたり継ぎても見むに大和なる大島のに家らましを

    鏡女王のこたまつれる歌一首

    0092 秋山のの下がくり行く水のこそまさらめ思ほさむよは

    内大臣うちのおほまへつきみ藤原のまへつきみの、鏡女王をつまどひたまふ時、鏡女王の内大臣に贈りたまへる歌一首

    0093 玉くしげ帰るを否み明けてゆかば君が名はあれどが名し惜しも

    内大臣藤原の卿の、鏡女王に報贈こたへたまへる歌一首

    0094 玉くしげ三室みむろの山のさなかづらさ寝ずは遂に有りかてましも

    内大臣藤原の卿の釆女うねべ安見児やすみこたる時よみたまへる歌一首

    0095 はもや安見児得たり皆人の得かてにすとふ安見児得たり

    久米禅師くめのぜむし石川郎女いしかはのいらつめつまどふ時の歌五首いつつ

    0096 美薦みこも苅る信濃しなぬの真弓が引かば貴人うまひとさびて否と言はむかも 禅師

    0097 美薦苅る信濃の真弓引かずしてくる行事わざを知ると言はなくに 郎女

    0098 梓弓引かばまにまに寄らめども後の心を知りかてぬかも 郎女

    0099 梓弓弓弦つらを取りけ引く人は後の心を知る人ぞ引く 禅師

    0100 東人あづまひと荷前のさきの箱のの緒にも妹が心に乗りにけるかも 禅師

    大伴宿禰おほとものすくね巨勢郎女こせのいらつめを娉ふ時の歌一首

    0101 玉葛たまかづら実ならぬ木には千早ぶる神そくちふ成らぬ木ごとに

    巨勢郎女が報贈こたふる歌一首

    0102 玉葛花のみ咲きて成らざるはが恋ならもは恋ひふを

    明日香の清御原きよみはらの宮に天の下知ろしめしし天皇の代

    天皇藤原夫人ふじはらのきさきに賜へる御歌おほみうた一首

    0103 我が里に大雪降れり大原の古りにし里に降らまくは後

    藤原夫人の和へ奉れる歌一首

    0104 我が岡のおかみに乞ひて降らしめし雪の砕けしそこに散りけむ

    藤原の宮に天の下知ろしめしし天皇の代

    大津皇子の、伊勢の神宮かみのみやしぬくだりて上来のぼります時に、大伯皇女おほくのひめみこのよみませる御歌二首ふたつ

    0105 我が背子を大和へ遣るとさ夜更けてあかとき露にが立ち濡れし

    0106 二人ゆけど行き過ぎがたき秋山をいかでか君が独り越えなむ

    大津皇子の、石川郎女に贈りたまへる御歌一首

    0107 足引の山のしづくに妹待つとが立ち濡れぬ山のしづくに

    石川郎女が和へ奉れる歌一首

    0108 を待つと君が濡れけむ足引の山のしづくにならましものを

    大津皇子、石川女郎いしかはのいらつめしぬひたまへる時、津守連通つもりのむらじとほるが其の事をうらひ露はせれば、皇子のよみませる御歌一首

    0109 大船おほぶねの津守がうららむとは兼ねてを知りて我が二人寝し

    日並皇子ひなみのみこみことの石川女郎に贈り賜へる御歌一首 女郎、アザナヲ大名児ト曰フ

    0110 大名児を彼方をちかた野辺ぬへに苅るかやつかのあひだもあれ忘れめや

    吉野よしぬの宮にいでませる時、弓削皇子ゆげのみこの額田王に贈りたまへる御歌一首

    0111 いにしへに恋ふる鳥かも弓絃葉ゆづるはの御井の上より鳴き渡りゆく

    額田王のこたへ奉れる歌一首

    0112 古に恋ふらむ鳥は霍公鳥ほととぎすけだしや鳴きしが恋ふるごと

    吉野よりこけせる松が折取りておくりたまへる時、額田王の奉入たてまつれる歌一首

    0113 み吉野の山松が枝はしきかも君が御言を持ちて通はく

    但馬皇女たぢまのひめみこの、高市皇子の宮にいませる時、穂積皇子しぬひてよみませる御歌一首

    0114 秋の田の穂向きの寄れる片依りに君に寄りなな言痛こちたかりとも

    穂積皇子にのりこちて、近江の志賀の山寺に遣はさるる時、但馬皇女のよみませる御歌一首

    0115 おくれ居て恋ひつつあらずは追ひかむ道の隈廻くまみしめ結へ我が

    但馬皇女の、高市皇子の宮に在せる時、穂積皇子にしぬひたまひし事既形あらはれて後によみませる御歌一首

    0116 人言ひとごとを繁み言痛み生ける世に未だ渡らぬ朝川渡る

    舎人皇子とねりのみこ舎人娘子とねりのいらつめに賜へる御歌一首

    0117 大夫ますらをや片恋せむと嘆けどもしこ益荒雄ますらをなほ恋ひにけり

    舎人娘子が和へ奉れる歌一首

    0118 嘆きつつ大夫ますらをのこの恋ふれこそ髪結もとゆひぢて濡れけれ

    弓削皇子ゆげのみこ紀皇女きのひめみこしぬひてよみませる御歌四首よつ

    0119 吉野川行く瀬の早みしましくも淀むことなく有りこせぬかも

    0120 吾妹子わぎもこに恋ひつつあらずは秋萩の咲きて散りぬる花ならましを

    0121 夕さらば潮満ち来なむ住吉すみのえの浅香の浦に玉藻苅りてな

    0122 大船のつる泊りのたゆたひに物ひ痩せぬ他人ひとの子故に

    三方沙弥みかたのさみが、園臣生羽そののおみいくはひて、幾だもあらねば、臥病やみふせるときの作歌うた三首

    0123 けばれ束かねば長き妹が髪このごろ見ぬに掻上かかげつらむか 三方沙弥

    0124 人皆は今は長みと束けと言へど君が見し髪乱りたりとも 娘子

    0125 橘の蔭踏む路の八衢やちまたに物をそ思ふ妹に逢はずて 三方沙弥

    石川女郎が、大伴宿禰田主おほとものすくねたぬしに贈れる歌一首

    0126 遊士みやびをあれは聞けるを宿貸さずあれを帰せりおその風流士みやびを

    大伴田主ハ、字仲郎ナカチコト曰リ。容姿佳艶、風流秀絶。見ル人聞ク者、歎息ナゲカズトイフコトシ。時ニ石川女郎イラツメトイフモノアリ。自ラ雙栖ノ感ヒヲ成シ、恒ニ独守ノ難キヲ悲シム。ココロハ書寄セムト欲ヘドモ、未ダ良キタヨリニ逢ハズ。爰ニ方便ヲ作シテ、賎シキ嫗ニ似セ、己レ堝子ナベヲ提ゲテ、ネヤノ側ニ到ル。哽音跼足、戸ヲ叩キトブラヒテ曰ク、東ノ隣ノ貧シキ、火ヲ取ラムト来タルト。是ニ仲郎、暗キウチニ冒隠ノ形ヲ識ラズ、慮外ニ拘接マジハリノ計ニ堪ヘズ。念ヒニ任セテ火ヲ取リ、跡ニ就キテ帰リ去ヌ。明ケテ後、女郎既ニ自ラ媒チセシコトノ愧ヅベキヲ恥ヂ、復タ心契チギリノ果タサザルヲ恨ム。因テ斯ノ歌ヲ作ミ、以テ贈リテ諺戯タハブレリ。

    大伴宿禰田主が報贈こたふる歌一首

    0127 遊士にあれはありけり宿貸さず帰せしあれそ風流士にある

    石川女郎がまた大伴宿禰田主に贈れる歌一首

    0128 が聞きし耳によく似つ葦のうれ足痛あなやむ我が背自愛つとめぶべし

    右、中郎ノ足ノニ依リ、此ノ歌ヲ贈リテ問訊トブラヘリ。

    大津皇子の宮のまかたち石川女郎が大伴宿禰宿奈麻呂すくなまろに贈れる歌一首

    0129 古りにしおみなにしてやかくばかり恋に沈まむ手童たわらはのごと

    長皇子皇弟いろどのみこおくりたまへる御歌一首

    0130 丹生にふの川瀬は渡らずてゆくゆくと恋痛こひた吾弟あおといで通ひ来ね

    柿本朝臣人麿石見国いはみのくによりに別れ上来まゐのぼる時の歌二首、また短歌みじかうた

    0131 石見の つぬ浦廻うらみを    浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと 人こそ見らめ    よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟はなくとも    鯨魚いさな取り 海辺うみへを指して    渡津わたづの 荒礒ありその上に か青なる 玉藻沖つ藻    朝羽振はふる 風こそ来寄せ 夕羽振はふる 波こそ来寄せ    波のむた か寄りかく寄る 玉藻なす 寄り寝し妹を    露霜つゆしもの 置きてし来れば    この道の 八十隈やそくまごとに よろづたび かへり見すれど    いや遠に 里はさかりぬ いや高に 山も越えぬ    夏草の 思ひしなえて しぬふらむ 妹が門見む 靡けこの山

    反し歌二首

    0132 石見のや高角たかつぬ山のの間よりが振る袖を妹見つらむか

    或ル本ノ反シ歌

     0134 石見なる高角山の木の間よもが袖振るを妹見けむかも

    0133 小竹ささが葉はみ山もさやに乱れどもあれは妹思ふ別れぬれば

    或ル本ノ歌一首、マタ短歌

     0138 石見の つぬの浦みを     浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと 人こそ見らめ     よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟はなくとも     勇魚いさな取り 海辺を指して     柔田津にきたづの 荒礒の上に か青なる 玉藻沖つ藻     明け来れば 波こそ来寄せ 夕されば 風こそ来寄せ     波のむた か寄りかく寄る 玉藻なす 靡きが寝し     敷布しきたへの 妹が手本たもとを 露霜の 置きてし来れば     この道の 八十隈ごとに 万たび かへり見すれど     いや遠に 里離り来ぬ いや高に 山も越え来ぬ     はしきやし が妻の子が 夏草の 思ひ萎えて     嘆くらむ 角の里見む 靡けこの山

    反し歌

     0139 石見の竹綱たかつぬ山の木の間よりが振る袖を妹見つらむか

    右、歌体同ジト雖モ、句々相替レリ。因テ此ニ重ネ載ス。

    0135 つぬさはふ 石見の海の ことさへく からの崎なる    海石いくりにそ 深海松ふかみる生ふる 荒礒にそ 玉藻は生ふる    玉藻なす 靡き寝し子を 深海松の 深めてへど    さ寝し夜は 幾だもあらず ふ蔦の 別れし来れば    肝向かふ 心を痛み 思ひつつ かへり見すれど    大舟の 渡の山の もみち葉の 散りのみだりに    妹が袖 さやにも見えず 妻隠つまごもる 屋上やかみの山の    雲間より 渡らふ月の 惜しけども 隠ろひ来つつ    天伝あまつたふ 入日さしぬれ 大夫と 思へるあれも    敷布の 衣の袖は 通りて濡れぬ

    反し歌二首

    0136 青駒あをこま足掻あがきを速み雲居にそ妹があたりを過ぎて来にける

    0137 秋山に散らふ黄葉もみちばしましくはな散りみだりそ妹があたり見む

    柿本朝臣人麿が依羅娘子よさみのいらつめが、人麿と相別わかるる歌一首

    0140 な思ひと君は言へども逢はむ時いつと知りてかが恋ひざらむ

    挽歌かなしみうた

    後の崗本の宮に天の下知ろしめしし天皇すめらみことみよ

    有間皇子自傷かなしみまして松が枝を結びたまへる御歌二首

    0141 磐代の浜松が枝を引き結びまさきくあらばまた還り見む

    0142 家にあればに盛るいひを草枕旅にしあれば椎の葉に盛る

    長忌寸意吉麻呂ながのいみきおきまろが、結び松を見て哀咽かなしみよめる歌二首

    0143 磐代の岸の松が枝結びけむ人は還りてまた見けむかも

    柿本朝臣人麿ノ歌集ニ云ク、大宝元年辛丑、紀伊国ニ幸セル時、結ビ松ヲ見テ作レル歌一首

     0146 後見むと君が結べる磐代の小松がうれをまた見けむかも

    0144 磐代の野中に立てる結び松心も解けずいにしへ思ほゆ

    山上臣憶良が追ひてなぞらふる歌一首

    0145 鳥翔つばさ成す有りがよひつつ見らめども人こそ知らね松は知るらむ


      2006-12-9 18:03:52
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      安倍晴冰
      帅哥哟,离线,有人找我吗?
        
      身份:领民
      言论:12
      入籍:2006年11月5日
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      近江の大津の宮に天の下知ろしめしし天皇の代

      天皇聖躬不豫おほみやまひせす時、大后おほきさきの奉れる御歌一首

      0147 天の原振り放け見れば大王おほきみ御寿みいのちは長く天足あまたらしたり

      一書ニ曰ク、近江天皇ノ聖体不豫ニシテ、御病ニハカナル時、大后ノ奉献レル御歌一首ナリト。

      天皇の崩御かむあがりませる時、〔倭〕大后のよみませる御歌二首

      0148 青旗の木旗こはたの上を通ふとは目には見ゆれどただに逢はぬかも

      0149 人はよし思ひむとも玉蘰たまかづら影に見えつつ忘らえぬかも

      天皇のかむあがりませる時、婦人をみながよめる歌一首 姓氏ハ詳ラカナラズ

      0150 うつせみし 神にへねば さかり居て 朝嘆く君    はなれ居て が恋ふる君 玉ならば 手に巻き持ちて    衣ならば 脱く時もなく が恋ひむ 君そ昨夜きそ いめに見えつる

      天皇の大殯おほあらきの時の歌四首

      0151 かからむとかねて知りせば大御船泊てし泊にしめ結はましを 額田王

      0152 やすみしし我ご大王の大御船待ちか恋ふらむ志賀の辛崎 舎人吉年

      大后の御歌一首

      0153 鯨魚いさな取り 淡海あふみの海を    沖けて 榜ぎ来る船 付きて 榜ぎ来る船    沖つ櫂 いたくなねそ 辺つ櫂 いたくな撥ねそ    若草の つまみことの 思ふ鳥立つ

      石川夫人いしかはのおほとじが歌一首

      0154 楽浪ささなみの大山守は誰が為か山に標結ふ君もさなくに

      山科の御陵みささぎより退散あがれる時、額田王のよみたまへる歌一首

      0155 やすみしし 我ご大王の 畏きや 御陵みはか仕ふる    山科の 鏡の山に よるはも のことごと    昼はも 日のことごと のみを 泣きつつありてや    ももしきの 大宮人は き別れなむ

      明日香の清御原の宮に天の下知ろしめしし天皇の代

      十市皇女のすぎませる時、高市皇子尊のよみませる御歌三首

      0156 三諸みもろの神の神杉かむすぎかくのみにありとし見つついねぬ夜ぞ多き

      0157 神山かみやま山辺やまへ真麻木綿まそゆふ短か木綿かくのみ故に長くと思ひき

      0158 山吹の立ち茂みたる*山清水汲みに行かめど道の知らなく

      天皇かむあがりませる時、大后のよみませる御歌一首

      0159 やすみしし 我が大王の 夕されば したまふらし    明け来れば 問ひたまふらし 神岳かみをかの 山の黄葉もみちを    今日もかも 問ひたまはまし 明日もかも したまはまし    その山を 振りけ見つつ 夕されば あやに悲しみ    明け来れば うらさび暮らし 荒布あらたへの 衣の袖は る時もなし

      一書ニ曰ク、天皇ノカムアガリマセル時、太上天皇ノ御製ミヨミマセルオホミウタ二首

       0160 燃ゆる火も取りて包みて袋にはると言はずや面智男雲

       0161 北山にたなびく雲の青雲の星さかり行き月もさかりて

      天皇ノ崩シシ後、八年九月九日御斎会ヲガミ奉為ツカヘマツレル夜、夢裏イメミ賜ヘル御歌一首

       0162 明日香の 清御原の宮に 天の下 知ろしめしし     やすみしし 我が大王 高光る 日の皇子     いかさまに 思ほしめせか 神風かむかぜの 伊勢の国は     沖つ藻も なびかふ波に 潮気のみ 香れる国に     味凝うまごり あやにともしき 高光る 日の御子

      藤原の宮に天の下知ろしめしし天皇の代

      大津皇子のすぎましし後、大来皇女おほくのひめみこの伊勢の斎宮いつきのみやより上京のぼりたまへる時、よみませる御歌二首

      0163 神風の伊勢の国にもあらましを何しか来けむ君もさなくに

      0164 見まく欲りがする君もさなくに何しか来けむ馬疲るるに

      大津皇子のみかばね葛城かづらき二上山ふたがみやまに移しはふりまつれる時、大来皇女の哀傷かなしみてよみませる御歌二首

      0165 うつそみの人なるあれや明日よりは二上山を我がが見む

      0166 磯の上に生ふる馬酔木あしび折らめど見すべき君がすと言はなくに

      日並皇子ひなみのみこみこと殯宮あらきのみやの時、柿本朝臣人麿がよめる歌一首、また短歌みじかうた

      0167 天地あめつちの 初めの時し 久かたの 天河原あまのがはらに    八百万やほよろづ 千万ちよろづ神の 神集かむつどひ 集ひいまして    神分かむあがち あがちし時に 天照らす 日女ひるめみこと    あめをば 知ろしめすと 葦原の 瑞穂の国を    天地の 寄り合ひの極み 知ろしめす 神の命と    天雲あまくもの 八重掻きけて 神下かむくだり いませまつりし    高光る 日の皇子は 飛鳥あすかの 清御きよみの宮に    神かむながら 太敷きまして 天皇すめろきの 敷きます国と    天の原 石門いはとを開き 神上かむのぼり 上りいましぬ    我がおほきみ 皇子の命の あめの下 知ろしめしせば    春花の 貴からむと 望月の たたはしけむと    天の下 四方よもの人の 大船おほぶねの 思ひ頼みて    あまつ水 あふぎて待つに いかさまに 思ほしめせか    由縁つれもなき 真弓の岡に 宮柱 太敷きいまし    御殿みあらかを 高知りまして 朝ごとに 御言問はさず    日月ひつきの 数多まねくなりぬれ そこ故に 皇子の宮人 行方知らずも

      反し歌二首

      0168 久かたのあめ見るごとくあふぎ見し皇子の御門の荒れまく惜しも

      0169 あかねさす日は照らせれどぬば玉の夜渡る月の隠らく惜しも

      或ル本、件ノ歌ヲ以テ後ノ皇子ノ尊ノ殯宮ノ時ノ反歌ト為ス。

      皇子の尊の宮の舎人等が慟傷かなしみてよめる歌二十三首はたちまりみつ

      0171 高光る我が日の皇子の万代よろづよに国知らさまし島の宮はも

      0172 島の宮まがりの池の放鳥はなちとり荒びな行きそ君さずとも

      或ルマキノ歌一首

       0170 島の宮勾の池の放鳥人目に恋ひて池にかづかず

      0173 高光る我が日の皇子のいましせば島の御門は荒れざらましを

      0174 よそに見し真弓の岡も君せばとこつ御門と侍宿とのゐするかも

      0175 いめにだに見ざりしものを欝悒おほほしく宮出もするかさ檜隈廻ひのくまみ

      0176 天地と共にに終へむと思ひつつ仕へまつりし心たがひぬ

      0177 朝日照る佐太さだ岡辺おかへに群れ居つつ吾等が泣く涙やむ時もなし

      0178 御立たしし島を見る時にはたづみ流るる涙止めぞかねつる

      0179 橘の島の宮には飽かねかも佐太の岡辺に侍宿しに往く

      0180 御立たしし島をも家と栖む鳥も荒びな行きそ年替るまで

      0181 御立たしし島の荒礒を今見れば生ひざりし草生ひにけるかも

      0182 鳥座とくら立て飼ひし雁の子巣ちなば真弓の岡に飛び還り来ね

      0183 我が御門千代常磐とことはに栄えむと思ひてありしあれし悲しも

      0184 ひむかしたぎ御門みかどさもらへど昨日も今日も召すことも無し

      0185 水つたふ礒の浦廻の石躑躅いそつつじく咲く道をまたも見むかも

      0186 一日ひとひには千たび参りしひむかしの滝の御門を入りかてぬかも

      0187 所由つれもなき佐太の岡辺に君せば島の御階みはしたれか住まはむ

      0188 あかねさす日の入りぬれば御立たしし島にり居て嘆きつるかも

      0189 朝日照る島の御門に欝悒おほほしく人音ひとともせねば真心まうら悲しも

      0190 真木柱まきばしら太き心はありしかどこのが心鎮めかねつも

      0191 けころもを春冬かたまけていでましし宇陀うだの大野は思ほえむかも

      0192 朝日照る佐太の岡辺に鳴く鳥の夜鳴きかへらふこの年ごろを

      0193 やたこらが夜昼と云はず行く路をあれはことごと宮道みやぢにぞする

      右、日本紀ニ曰ク、三年己丑夏四月癸未朔乙未薨セリ。

      河島皇子殯宮あらきのみやの時、柿本朝臣人麿が泊瀬部皇女はつせべのひめみこに献れる歌一首、また短歌*

      0194 飛ぶ鳥の 明日香の川の かみつ瀬に 生ふる玉藻は    しもつ瀬に 流れらふ 玉藻なす か寄りかく寄り    靡かひし つまみことの たたなづく 柔膚にきはだすらを    剣刀つるぎたち 身に添へ寝ねば ぬば玉の 夜床よとこも荒るらむ    そこ故に 慰めかねて けだしくも 逢ふやと思ほして    玉垂たまたれの 越智をちの大野の 朝露に 玉藻はひづち    夕霧に 衣は濡れて 草枕 旅寝かもする 逢はぬ君故

      反し歌一首

      0195 敷布しきたへの袖交へし君玉垂の越智野に過ぎぬまたも逢はめやも

      *、日本紀ニ云ク、朱鳥五年辛卯秋九月己巳朔丁丑、浄大参皇子川嶋薨セリ。

      高市皇子の尊の、城上きのへの殯宮の時、柿本朝臣人麿がよめる歌一首、また短歌

      0199 かけまくも ゆゆしきかも 言はまくも あやに畏き    明日香の 真神の原に 久かたの あま御門みかどを    畏くも 定めたまひて かむさぶと 磐隠いはがくります    やすみしし 我がおほきみの きこしめす 背面そともの国の    真木立つ 不破山越えて 高麗剣こまつるぎ 和射見わざみが原の    行宮かりみやに 天降あもいまして 天の下 治めたまひ    す国を 定めたまふと とりが鳴く あづまの国の    御軍士みいくさを 召したまひて 千磐ちは破る 人をやはせと    まつろはぬ 国を治めと 皇子ながら きたまへば    大御身おほみみに 大刀取り帯ばし 大御手おほみてに 弓取り持たし    御軍士を あどもひたまひ 整ふる つつみの音は    いかつちの 声と聞くまで 吹きせる 小角くだの音も    あた見たる 虎か吼ゆると 諸人の おびゆるまでに    差上ささげたる はたの靡きは 冬こもり 春さり来れば    野ごとに つきてある火の 風のむた 靡くがごとく    取り持たる 弓弭ゆはずの騒き み雪降る 冬の林に    旋風つむしかも い巻き渡ると 思ふまで 聞きのかしこく    引き放つ 矢の繁けく 大雪の 乱りてきたれ    まつろはず 立ち向ひしも 露霜つゆしもの なば消ぬべく    く鳥の 争ふはしに 度會わたらひの いはひの宮ゆ    神風に 息吹いぶき惑はし 天雲あまくもを 日の目も見せず    常闇とこやみに 覆ひたまひて 定めてし 瑞穂の国を    神ながら 太敷きいます やすみしし 我が大王の    天の下 まをしたまへば 万代よろづよに しかしもあらむと    木綿花ゆふはなの 栄ゆる時に 我が大王 皇子の御門を    神宮かむみやに 装ひまつりて 遣はしし 御門の人も    白布しろたへの 麻衣あさころも着て 埴安はにやすの 御門の原に    あかねさす 日のことごと ししじもの い匍ひ伏しつつ    ぬば玉の 夕へになれば 大殿おほとのを 振り放け見つつ    鶉なす い匍ひもとほり さもらへど 侍ひかねて    春鳥の さまよひぬれば 嘆きも いまだ過ぎぬに    おもひも いまだ尽きねば ことさへく 百済くだらの原ゆ    神葬かむはふり 葬りいまして あさもよし 城上の宮を    常宮とこみやと 定めまつりて 神ながら 鎮まりしぬ    しかれども 我が大王の 万代と 思ほしめして    作らしし 香具山の宮 万代に 過ぎむとへや    あめのごと 振り放け見つつ 玉たすき 懸けて偲はむ 畏かれども

      短歌二首

      0200 久かたの天知らしぬる君故に日月も知らに恋ひわたるかも

      0201 埴安の池の堤の隠沼こもりぬの行方を知らに舎人はまど

      或ル書ノ反歌一首

       0202 哭澤なきさは神社もり神酒みわ据ゑまめども我がおほきみは高日知らしぬ

      右ノ一首ハ、類聚歌林ニ曰ク、檜隈女王、泣澤ノ神社ヲ怨メル歌ナリ。日本紀ニ案ルニ曰ク、〔持統天皇〕十年丙申秋七月辛丑朔庚戌、後ノ皇子尊薨セリ。

      弓削皇子のすぎませる時、置始東人おきそめのあづまひとがよめる歌一首、また短歌

      0204 やすみしし 我がおほきみ 高光る 日の皇子    久かたの あまつ宮に 神ながら 神といませば    そこをしも あやに畏み 昼はも 日のことごと    よるはも のことごと 臥し居嘆けど 飽き足らぬかも

      反し歌一首

      0205 おほきみは神にしませば天雲あまくも五百重いほへが下に隠りたまひぬ

      〔又短歌一首〕*

      0206 楽浪ささなみの志賀さざれ波しくしくに常にと君が思ほえたりける

      明日香皇女の城上きのへの殯宮の時、柿本朝臣人麿がよめる歌一首、また短歌*

      0196 飛ぶ鳥の 明日香の川の    上つ瀬に 石橋いはばし渡し 下つ瀬に 打橋渡す    石橋に ひ靡ける 玉藻もぞ 絶ゆればふる    打橋に ひををれる 川藻もぞ 枯るればゆる    なにしかも 我がおほきみの 立たせば 玉藻のごと    やせば 川藻のごとく 靡かひし よろしき君が    朝宮を 忘れたまふや 夕宮を 背きたまふや    うつそみと 思ひし時に    春へは 花折り挿頭かざし 秋立てば 黄葉もみちば挿頭し    敷布の 袖たづさはり 鏡なす 見れども飽かに    望月もちつきの いやめづらしみ 思ほしし 君と時々    出でまして 遊びたまひし 御食みけ向ふ 城上の宮を    常宮とこみやと 定めたまひて あぢさはふ 目言めことも絶えぬ    そこをしも あやに悲しみ ぬえとりの 片恋しつつ    朝鳥の 通はす君が 夏草の 思ひ萎えて    夕星ゆふづつの か行きかく行き 大船の たゆたふ見れば    慰むる 心もあらず そこ故に むすべ知らに    音のみも 名のみも絶えず 天地の いや遠長く    しぬひ行かむ 御名に懸かせる 明日香川 万代までに    はしきやし 我がおほきみの 形見にここを

      短歌二首

      0197 明日香川しがらみ渡しかませば流るる水ものどにかあらまし

      0198 明日香川明日さへ見むと思へやも我が王の御名忘れせぬ

      柿本朝臣人麿が、みまかりし後、泣血哀慟かなしみよめる歌二首、また短歌

      0207 あま飛ぶや かるの路は 我妹子わぎもこが 里にしあれば    ねもころに 見まく欲しけど 止まず行かば 人目を多み    数多まねく行かば 人知りぬべみ さね葛 後も逢はむと    大船の 思ひ頼みて 玉蜻かぎろひの 磐垣淵いはかきふちの    こもりのみ 恋ひつつあるに    渡る日の 暮れゆくがごと 照る月の 雲隠がくるごと    沖つ藻の 靡きし妹は もみち葉の 過ぎてにしと    玉梓たまづさの 使の言へば 梓弓 音のみ聞きて    言はむすべ 為むすべ知らに 音のみを 聞きてありえねば    が恋ふる 千重の一重も 慰むる 心もありやと    我妹子が 止まず出で見し 輕の市に が立ち聞けば    玉たすき 畝傍うねびの山に 鳴く鳥の 声も聞こえず    玉ほこの 道行く人も 一人だに 似てし行かねば    すべをなみ 妹が名呼びて 袖ぞ振りつる

      短歌二首

      0208 秋山の黄葉もみちを茂み惑はせる妹を求めむ山道やまぢ知らずも

      0209 もちみ葉の散りぬるなべに玉梓の使を見れば逢ひし日思ほゆ

      0210 うつせみと 思ひし時に たづさへて が二人見し    走出わしりでの 堤に立てる つきの木の こちごちのの    春の葉の 茂きがごとく 思へりし 妹にはあれど    頼めりし 子らにはあれど 世間よのなかを 背きしえねば    蜻火かぎろひの 燃ゆる荒野に 白布しろたへの 天領巾あまひれかくり    鳥じもの 朝いまして 入日なす 隠りにしかば    我妹子が 形見に置ける 若き児の 乞ひ泣くごとに    取り与ふ 物しなければ をとこじもの 脇ばさみ持ち    我妹子と 二人が寝し 枕付く 妻屋のうちに    昼はも うらさび暮らし 夜はも 息づき明かし    嘆けども せむすべ知らに 恋ふれども 逢ふよしをなみ    大鳥おほとりの 羽易はかひの山に が恋ふる 妹はいますと    人の言へば 岩根さくみて なづみし よけくもぞなき    うつせみと 思ひし妹が 玉蜻かぎろひの 髣髴ほのかにだにも 見えぬ思へば

      短歌二首

      0211 去年こぞ見てし秋の月夜つくよは照らせれど相見し妹はいや年さか

      0212 衾道ふすまぢ引手ひきての山に妹を置きて山道を往けば生けるともなし

      或ルマキノ歌ニ曰ク

       0213 うつそみと 思ひし時に 手たづさひ が二人見し     出立いでたちの 百枝ももえ槻の木 こちごちに 枝させるごと     春の葉の 茂きがごとく 思へりし 妹にはあれど     たのめりし 妹にはあれど 世の中を 背きしえねば     かぎろひの 燃ゆる荒野に 白布の 天領巾隠り     鳥じもの 朝発ちい行きて 入日なす 隠りにしかば     我妹子が 形見に置ける 緑児みどりこの 乞ひ泣くごとに     取りまかす 物しなければ 男じもの 脇ばさみ持ち     吾妹子と 二人が寝し 枕付く 妻屋のうちに     昼は うらさび暮らし 夜は 息づき明かし     嘆けども せむすべ知らに 恋ふれども 逢ふよしをなみ     大鳥の 羽易はかひの山に が恋ふる 妹はいますと     人の言へば 岩根さくみて なづみ来し よけくもぞなき     うつそみと 思ひし妹が 灰而座者*

      短歌

       0214 去年見てし秋の月夜は渡れども相見し妹はいや年離る

       0215 衾道を引手の山に妹を置きて山路やまぢ思ふに生けるともなし

      0216 家に来て妻屋を見れば玉床たまとこに向かひけり妹が木枕こまくら

      志賀津釆女しがつのうねべ*みまかれる時、柿本朝臣人麿がよめる歌一首、また短歌

      0217 秋山の したべる妹 なよ竹の とを依る子らは    いかさまに 思ひせか 栲縄たくなはの 長き命を    露こそは あしたに置きて 夕へは ぬといへ    霧こそは 夕へに立ちて あしたは 失すといへ    梓弓 音聞くあれも 髣髴おほに見し こと悔しきを    敷布しきたへの 枕まきて 剣刀つるぎたち 身に添へ寝けむ    若草の そのつまの子は さぶしみか 思ひてらむ    悔しみか 思ひ恋ふらむ 時ならず 過ぎにし子らが    朝露のごと 夕霧のごと

      短歌二首

      0218 楽浪ささなみの志賀津の子らがまかりにし川瀬の道を見ればさぶしも

      0219 左々数ささなみ*大津の子が逢ひし日におほに見しかば今ぞ悔しき

      讃岐国さぬきのくに狭岑島さみねのしまにて石中いそへ死人しにひとを視て、柿本朝臣人麿がよめる歌一首、また短歌

      0220 玉藻よし 讃岐の国は    国柄くにからか 見れども飽かぬ 神柄かみからか ここだ貴き    天地 日月とともに り行かむ 神の御面みおもと    云ひ継げる 那珂なかの港ゆ 船浮けて が榜ぎ来れば    時つ風 雲居に吹くに 沖見れば しき波立ち    見れば 白波騒く 鯨魚いさな取り 海を畏み    行く船の 梶引き折りて をちこちの 島は多けど    名ぐはし 狭岑の島の 荒磯廻ありそみに 廬りて見れば    波のの 繁き浜辺はまへを 敷布の 枕になして    荒床あらとこに ころ臥す君が 家知らば 行きても告げむ    妻知らば 来も問はましを 玉ほこの 道だに知らず    欝悒おほほしく 待ちか恋ふらむ しき妻らは

      反し歌二首

      0221 妻もあらば摘みてげまし狭岑山野ののうはぎ過ぎにけらずや

      0222 沖つ波来寄る荒礒を敷布の枕とまきてせる君かも

      柿本朝臣人麿が石見国に在りてみまからむとする時、自傷かなしみよめる歌一首

      0223 鴨山の磐根しけるあれをかも知らにと妹が待ちつつあらむ

      柿本朝臣人麿がみまかれる時、依羅娘子よさみのいらつめがよめる歌二首

      0224 今日今日とが待つ君は石川の貝に交りてありといはずやも

      0225 ただに逢はば逢ひもかねてむ石川に雲立ち渡れ見つつ偲はむ

      丹比真人たぢひのまひとが柿本朝臣人麿がこころなそらへてこたふる歌

      0226 荒波に寄せ来る玉を枕に置きあれここにありと誰か告げけむ

      或るまきの歌に曰く

      0227 天ざかるひな荒野あらぬに君を置きて思ひつつあれば生けるともなし

      寧樂ならの宮に天の下知ろしめしし天皇の代

      和銅元年はじめのとし歳次戊申つちのえさる*、但馬皇女のすぎたまへる後、穂積皇子の冬日雪落ゆきのふるひ御墓を遥望みさけて、悲傷流涕かなしみよみませる御歌一首*

      0203 降る雪はあはにな降りそ吉隠よなばり猪養ゐかひの岡のせき為さまくに

      四年よとせといふとし歳次辛亥かのとのゐ河邊宮人かはべのみやひとが姫島の松原にて嬢子をとめしにかばねを見て悲嘆かなしみよめる歌二首

      0228 妹が名は千代に流れむ姫島の小松のうれに蘿生すまでに

      0229 難波潟潮干なありそね沈みにし妹が姿を見まく苦しも

      霊亀りやうき元年歳次乙卯きのとのう秋九月ながつき志貴親王しきのみこすぎませる時、よめる歌一首〔また短歌〕*

      0230 梓弓 手に取り持ちて 大夫ますらをの 幸矢さつや挟み    立ち向ふ 高圓山たかまとやまに 春野焼く 野火ぬひと見るまで    燃ゆる火を いかにと問へば 玉ほこの 道来る人の    泣く涙 霈霖ひさめに降れば 白布の 衣ひづちて    立ち留まり あれに語らく 何しかも もとな言へる    聞けば のみし泣かゆ 語れば 心そ痛き    天皇すめろきの 神の御子の 御駕いでましの 手火たびの光そ ここだ照りたる

      志貴親王のすぎませる後、悲傷かなしみよめる〔短〕歌二首*

      0231 高圓の野辺ぬへの秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに

      0232 御笠山野辺行く道はこきだくも繁く荒れたるか久にあらなくに

      右ノ歌ハ、笠朝臣金村ノ歌集ニ出デタリ。或ル本ノ歌ニ曰ク

       0233 高圓の野辺の秋萩な散りそね君が形見に見つつ偲はむ

       0234 御笠山野辺ゆ行く道こきだくも荒れにけるかも久にあらなくに


        2006-12-9 18:04:52
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        安倍晴冰
        帅哥哟,离线,有人找我吗?
          
        身份:领民
        言论:12
        入籍:2006年11月5日
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        訓読万葉集 巻3 ―鹿持雅澄『萬葉集古義』による―


        巻第三みまきにあたるまき

        雑歌くさぐさのうた

        天皇すめらみこと雷岳いかつちのをか御遊いでませる時、柿本朝臣人麻呂がよめる歌一首ひとつ

        0235 おほきみは神にしませば天雲あまくもいかつちいほりせるかも

        右、或ルマキニ云ク、忍壁皇子オサカベノミコニ献レリ。其ノ歌ニ曰ク、

           おほきみは神にしませば雲がくる雷山に宮敷きいま

        天皇志斐嫗しひのおみなに賜へる御歌おほみうた一首

        0236 いなと言へど強ふる志斐のが強語しひかたりこのごろ聞かずてあれ恋ひにけり

        志斐嫗がこたまつれる歌一首

        0237 いなと言へど語れ語れとらせこそ志斐いはまをせ強語と

        長忌寸意吉麻呂ながのいみきおきまろみことのりうけたまはりてよめる歌一首

        0238 大宮の内まで聞こゆ網引あびきすと網子あこ調ととのふる海人の呼び声

        右一首。

        長皇子猟路野かりぢぬ遊猟みかりしたまへる時、柿本朝臣人麻呂がよめる歌一首、また短歌みじかうた

        0239 やすみしし 我が大王おほきみ 高光る 我が日の皇子の    馬めて 御狩立たせる 若薦わかこもを 猟路の小野に    ししこそは い匍ひをろがめ 鶉こそ い匍ひもとほれ    ししじもの い匍ひをろがみ 鶉なす い匍ひもとほり    かしこみと 仕へまつりて 久かたの あめ見るごとく    真澄鏡まそかがみ 仰ぎて見れど 春草の いやめづらしき 我が大王かも

        反し歌一首

        0240 ひさかたの天行く月をつなに刺し我が大王はきぬかさにせり

        或ル本ノ反歌一首

         0241 おほきみは神にしませば真木の立つ荒山中に海を成すかも

        弓削皇子ゆげのみこ吉野よしぬいでませる時の御歌一首

        0242 たぎの三船の山にゐる雲の常にあらむと我がはなくに

        或ル本ノ歌一首

         0244 み吉野の三船の山に立つ雲の常にあらむと我がはなくに

        右ノ一首ハ、柿本朝臣人麻呂ノ歌集ニ出デタリ。

        春日王かすがのおほきみの和へ奉れる歌一首

        0243 おほきみは千歳にさむ白雲も三船の山に絶ゆる日あらめや

        長田王ながたのおほきみ筑紫つくしに遣はされ水島を渡りたまふ時の歌二首ふたつ

        0245 聞きし如まこと貴くくすしくもかむさびますかこれの水島

        0246 葦北の野坂の浦ゆ船出して水島に行かむ波立つなゆめ

        石川大夫いしかはのまへつきみが和ふる歌一首

        0247 沖つ波辺波へなみ立つとも我が背子が御船のとまり波立ためやも

        又長田王のよみたまへる歌一首

        0248 隼人はやひとの薩摩の瀬戸を雲居なす遠くもあれは今日見つるかも

        柿本朝臣人麻呂が覊旅たびの歌八首やつ

        0249 御津の崎波をかしこ隠江こもりえの船寄せかねつ野島ぬしまの崎に

        0250 玉藻刈る敏馬みぬめを過ぎ夏草の野島の崎に舟近づきぬ

        0251 淡路の野島の崎の浜風に妹が結べる紐吹き返す

        0252 荒布あらたへの藤江の浦にすずき釣る海人とか見らむ旅行くあれ

        0253 稲日野いなびぬも行き過ぎかてに思へれば心こほしき加古の島見ゆ

        0254 燭火ともしびの明石大門おほとに入らむ日や榜ぎ別れなむ家のあたり見ず

        0255 天ざかるひな長道ながちゆ恋ひ来れば明石のより大和島見ゆ

        0256 飼飯けひの海の庭よくあらし苅薦の乱れ出づ見ゆ海人の釣船

        一本ニ云ク、

            武庫むこの海の船にはあらしいざりする海人の釣船波のゆ見ゆ

        鴨君足人かものきみたりひとが香具山の歌一首、また短歌

        0257 天降あもりつく あめの香具山 霞立つ 春に至れば    松風に 池波立ちて 桜花 木晩このくれ茂み    沖辺には 鴨妻呼ばひ 辺つに あぢむら騒き    ももしきの 大宮人の 退まかり出て 遊ぶ船には    楫棹かぢさをも なくてさぶしも 榜ぐ人なしに

        反し歌二首

        0258 人榜がず有らくもしるかづきする鴛鴦をし沈鳧たかべと船のに棲む

        0259 いつの間も神さびけるか香具山の桙杉の本に苔むすまでに

        或ル本ノ歌ニ云ク

         0260 天降りつく 神の香具山 打ち靡く 春さり来れば     桜花 木晩茂み 松風に 池波立ち     辺つ方は あぢ群騒き 沖辺は 鴨妻呼ばひ     ももしきの 大宮人の 退り出て 榜ぎにし船は     棹楫さをかぢも なくて寂しも 榜がむとへど

        柿本朝臣人麻呂が新田部皇子にひたべのみこに献れる歌一首、また短歌

        0261 やすみしし 我が大王 高光る 日の皇子    敷きす 大殿のに 久方の 天伝あまづたひ来る    雪じもの 往き通ひつつ いやしきいま

        反し歌一首

        0262 矢釣やつり山木立も見えず降り乱る雪に騒きて参らくよしも

        刑部垂麿おさかべのたりまろが近江国より上来まゐのぼる時よめる歌一首

        0263 いたく打ちてな行きそ並べて見ても我が行く志賀にあらなくに

        柿本朝臣人麻呂が近江国より上来る時、宇治河うぢかはほとりに至りてよめる歌一首

        0264 物部もののふ八十やそ宇治川の網代木あじろきにいさよふ波の行方知らずも

        長忌寸奥麻呂が歌一首

        0265 苦しくも降り来る雨かかみの崎狭野の渡りに家もあらなくに

        柿本朝臣人麻呂が歌一首

        0266 淡海あふみ夕波千鳥が鳴けば心もしぬにいにしへ思ほゆ

        志貴皇子の御歌一首

        0267 むささびは木末こぬれ求むと足引の山の猟師さつをに逢ひにけるかも

        長屋王故郷ふるさとの歌一首

        0268 我が背子が古家ふるへの里の明日香には千鳥鳴くなり君待ちかねて

        阿倍女郎あべのいらつめ屋部坂やべさかの歌一首

        0269 しぬひなば我が袖もちて隠さむを焼けつつかあらむ着ずてしけり

        高市連黒人が覊旅たびの歌八首

        0270 旅にして物こほしきに山下のあけ赭土船そほぶね沖に榜ぐ見ゆ

        0271 作良さくら田へたづ鳴き渡る年魚市潟あゆちがた潮干にけらし鶴鳴き渡る

        0272 四極しはつ山打ち越え見れば笠縫かさぬひの島榜ぎ隠る棚無小舟たななしをぶね

        0273 磯の崎榜ぎみ行けば近江の八十の水門みなとに鶴さはに鳴く

        0274 我が船は比良ひらの湊に榜ぎてむ沖へなさかりさ夜更けにけり

        0275 いづくには宿らなむ高島の勝野の原にこの日暮れなば

        0276 妹もあれも一つなれかも三河なる二見の道ゆ別れかねつる

        一本、黒人ガ妻ノ答フル歌ニ云ク、

           三河なる二見の道ゆ別れなば我が背もあれも独りかも行かむ

        0277 早来ても見てましものを山背やましろ高槻の村*散りにけるかも

        石川女郎いしかはのいらつめが歌一首

        0278 志賀しかの海女は昆布苅り塩焼きいとま無み髪梳くしげ小櫛をくし取りも見なくに

        高市連黒人が歌二首

        0279 我妹子わぎもこ猪名野ゐなぬは見せつ名次なすぎつぬの松原いつか示さむ

        0280 いざ子ども大和へ早く白菅しらすげ真野まぬ榛原はりはら手折たをりて行かむ

        黒人がの答ふる歌一首

        0281 白菅の真野の榛原往くささ君こそ見らめ真野の榛原

        春日蔵首老かすがのくらびとおゆが歌一首

        0282 つぬさはふ磐余いはれも過ぎず泊瀬山いつかも越えむ夜は更けにつつ

        高市連黒人が歌一首

        0283 住吉すみのえ得名津えなつに立ちて見渡せば武庫の泊ゆ出づる船人ふなひと

        春日蔵首老が歌一首

        0284 焼津辺やきづへが行きしかば駿河なる阿倍の市道いちぢに逢ひし子らはも

        丹比真人笠麻呂が、紀伊国に往き、の山を超ゆる時よめる歌一首

        0285 栲領巾たくひれの懸けまく欲しき妹の名をこの勢の山に懸けばいかにあらむ

        春日蔵首老が即ち和ふる歌一首

        0286 よろしなべが背の君が負ひ来にしこの勢の山を妹とは呼ばじ

        志賀しがいでませる時、石上いそのかみまへつきみのよみたまへる歌一首

        0287 ここにして家やも何処いづく白雲の棚引く山を越えて来にけり

        穂積朝臣老ほづみのあそみおゆが歌一首

        0288 我が命のまさきくあらば亦も見む志賀の大津に寄する白波

        間人宿禰大浦はしひとのすくねおほうら初月みかつきの歌二首

        0289 天の原振り放け見ればしら真弓張りて懸けたり夜道は行かむ

        0290 倉椅くらはしの山を高みか夜隠よこもりに出で来る月の光ともしき

        小田事主をだのことぬしが勢の山の歌一首

        0291 真木の葉のしなふ勢の山偲はずてが越え行けば木の葉知りけむ

        録兄麻呂ろくのえまろ*が歌四首よつ

        0292 久方のあま探女さぐめが岩船の泊てし高津はせにけるかも

        0293 潮干しほひの御津の海女の藁袋くぐつ持ち玉藻苅るらむいざ行きて見む

        0294 風をいたみ沖つ白波高からし海人の釣船浜に帰りぬ

        0295 住吉すみのえの岸の松原遠つ神我がおほきみ幸行処いでましところ

        田口益人大夫たくちのますひとのまへつきみ上野かみつけぬ国司くにのみこともちけらるる時、駿河国浄見埼きよみのさきに至りてよめる歌二首

        0296 廬原いほはらの清見が崎の三穂の浦のゆたけき見つつ物ひもなし

        0297 昼見れど飽かぬ田子の浦大王のみこと畏み夜見つるかも

        辨基べむきが歌一首

        0298 真土山夕越え行きて廬前いほさき角太川原すみだがはらに独りかも寝む

        大納言おほきものまをすつかさ大伴のまへつきみの歌一首

        0299 奥山のすがの葉しぬぎ降る雪のなば惜しけむ雨な降りそね

        長屋王の馬を寧樂なら山にとどめてよみたまへる歌二首

        0300 佐保過ぎて寧樂の手向たむけに置くぬさは妹を目れず相見しめとそ

        0301 岩が根の凝重こごしく山を越えかねてには泣くとも色に出でめやも

        中納言なかのものまをすつかさ安倍廣庭あべのひろにはの卿の歌一首

        0302 子らが家道やや間遠まとほきをぬば玉の夜渡る月にきほひあへむかも

        柿本朝臣人麻呂が筑紫国に下れる時、海路うみつぢにてよめる歌二首

        0303 名ぐはしき印南いなみの海の沖つ波千重に隠りぬ大和島根は

        0304 大王の遠の朝廷みかどとありかよ島門しまとを見れば神代し思ほゆ

        高市連黒人の近江の旧き都の歌一首

        0305 かく故に見じと言ふものを楽浪ささなみの旧き都を見せつつもとな

        伊勢国にいでませる時、安貴王あきのおほきみのよみたまへる歌一首

        0306 伊勢の海の沖つ白波花にもが包みて妹が家苞いへづとにせむ

        博通法師はくつうほうしが紀伊国に往きて三穂の石室いはやを見てよめる歌三首

        0307 はたすすき久米の若子わくごいましけむ三穂の石室は荒れにけるかも

        0308 常磐なす石室は今も在りけれど住みける人そ常なかりける

        0309 石室戸いはやとに立てる松の樹を見れば昔の人を相見るごとし

        門部王かどべのおほきみひむがしの市の樹を詠みたまへる作歌うた一首

        0310 東の市の植木の木垂こだるまで逢はず久しみうべ恋ひにけり

        按作村主益人くらつくりのすくりますひと豊前国とよくにのみちのくちよりみやこまゐのぼる時よめる歌一首

        0311 梓弓引き豊国の鏡山見ず久ならばこほしけむかも

        式部卿のりのつかさのかみ藤原宇合ふぢはらのうまかひの卿に、難波のみやこを改め造らしめたまへる時よめる歌一首

        0312 昔こそ難波田舎と言はれけめ今は都と都びにけり

        土理宣令とりのせむりやうが歌一首

        0313 み吉野のたぎの白波知らねども語りし継げば古思ほゆ

        波多朝臣少足はたのあそみをたりが歌一首

        0314 小波さざれなみ礒越道いそこせぢなる能登瀬川音のさやけさたぎつ瀬ごとに

        暮春之月やよひばかり、芳野の離宮とつみやに幸せる時、中納言大伴の卿みことのりうけたまはりてよみたまへる歌一首、また短歌 奏上ヲザル歌

        0315 み吉野の 吉野の宮は 山柄やまからし 貴くあらし    川柄かはからし 清けくあらし 天地と 長く久しく    万代に 変らずあらむ 行幸いでましの宮

        反し歌

        0316 昔見しきさの小川を今見ればいよよ清けく成りにけるかも

        山部宿禰赤人不盡山ふじのやまてよめる歌一首、また短歌

        0317 天地あめつちの 分かれし時ゆ 神さびて 高くたふとき    駿河なる 富士の高嶺たかねを あまの原 振りけ見れば    渡る日の 影もかくろひ 照る月の 光も見えず    白雲しらくもも い行きはばかり 時じくそ 雪は降りける    語り継ぎ 言ひ継ぎゆかむ 不盡ふじ高嶺たかね

        反し歌

        0318 田子たこの浦ゆ打ちて見れば真白くそ*不盡の高嶺に雪は降りける

        不盡山を詠める歌一首、また短歌

        0319 なまよみの 甲斐の国 打ち寄する 駿河の国と    此方此方こちごちの 国のみ中ゆ 出で立てる 不盡ふじ高嶺たかねは    天雲も い行きはばかり 飛ぶ鳥も びものぼらず    燃ゆる火を 雪もちち 降る雪を 火もち消ちつつ    言ひもかね 名付けも知らに くすしくも います神かも    石花海せのうみと 名付けてあるも その山の つつめる海ぞ    不盡川と 人の渡るも その山の 水のたぎちぞ    日の本の 大和の国の しづめとも 座す神かも    宝とも なれる山かも 駿河なる 不盡ふじ高嶺たかねは 見れど飽かぬかも

        反し歌

        0320 不盡の嶺に降り置ける雪は六月みなつき十五日もちぬればその夜降りけり

        0321 富士の嶺を高み畏み天雲もい行きはばかり棚引くものを

        右ノ一首ハ、高橋連蟲麻呂ノ歌集ノ中ニ出タリ。類ヲ以テ此ニ載ス。

        山部宿禰赤人が伊豫温泉いよのゆきてよめる歌一首、また短歌

        0322 皇神祖すめろきの 神のみことの 敷きす 国のことごと    湯はしも さはにあれども 島山の 宣しき国と    凝々こごしかも 伊豫の高嶺の 射狭庭いざにはの 岡に立たして    歌思ひ こと思はしし み湯のの 木群こむらを見れば    臣木おみのきも 生ひ継ぎにけり 鳴く鳥の 声も変らず    遠き代に 神さびゆかむ 行幸処いでましところ

        反し歌

        0323 ももしきの大宮人の熟田津にきたづふな乗りしけむ年の知らなく

        神岳かみをかに登りて山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌

        0324 三諸みもろの 神名備山かむなびやまに 五百枝いほえさし しじに生ひたる    つがの木の いや継ぎ嗣ぎに 玉葛たまかづら 絶ゆることなく    ありつつも 止まず通はむ 明日香の ふるき都は    山高み 川透白とほしろし    春の日は 山し見がほし 秋の夜は 川しさやけし    朝雲に たづは乱れ 夕霧に かはづは騒ぐ    見るごとに のみし泣かゆ いにしへ思へば

        反し歌

        0325 明日香河川淀さらず立つ霧の思ひ過ぐべき恋にあらなくに

        門部王の難波にいまして、漁父あま燭光いざりひを見てよみたまへる歌一首

        0326 見渡せば明石の浦に燭す火の穂にぞ出でぬる妹に恋ふらく

        或る娘子をとめ等、乾鰒ほしあはびを包めるを、通觀僧つぐわむほうしに贈りて、たはれに咒願かしりを請ふ時、通觀がよめる歌一首

        0327 わたつみの沖に持ち行きて放つとも如何うれむぞこれが蘇りなむ

        太宰少弐おほみこともちのすなきすけ小野老朝臣をぬのおゆのあそみが歌一首

        0328 青丹よし寧樂の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり

        防人司佑さきもりのつかさのまつりごとひと大伴四綱よつなが歌二首

        0329 やすみしし我がおほきみの敷きせる国の中なる都し思ほゆ

        0330 藤波の花は盛りに成りにけり平城ならの都を思ほすや君

        かみ大伴の卿の歌五首

        0331 が盛りまた変若ちめやもほとほとに寧樂の都を見ずかなりなむ

        0332 我が命も常にあらぬか昔見しきさの小川を行きて見むため

        0333 浅茅原つばらつばらに物へば故りにしさとし思ほゆるかも

        0334 萱草わすれぐさ我が紐に付く香具山の古りにし里を忘れぬがため

        0335 我がゆきは久にはあらじいめわだ瀬とは成らずて淵にありこそ

        沙弥満誓さみのまむぜいが綿を詠める歌一首

        0336 しらぬひ筑紫の綿は身に付けて未だは着ねど暖けく見ゆ

        山上臣憶良やまのへのおみおくらが宴よりまかるときの歌一首

        0337 憶良らは今は罷らむ子泣くらむの母もを待つらむそ

        太宰帥おほみこともちのかみ大伴の卿の酒を讃めたまふ歌十三首とをまりみつ

        0338 しるしなき物をはずは一坏ひとつきの濁れる酒を飲むべくあらし

        0339 酒の名をひじりと負ほせし古の大き聖の言の宣しさ

        0340 古の七のさかしき人たちもりせし物は酒にしあらし

        0341 賢しみと物言はむよは酒飲みて酔哭ゑひなきするし勝りたるらし

        0342 言はむすべ為むすべ知らに極りて貴き物は酒にしあらし

        0343 中々に人とあらずは酒壷さかつぼに成りてしかも酒に染みなむ

        0344 あなみにく賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む

        0345 あたひなき宝といふとも一坏の濁れる酒にあに勝らめや

        0346 夜光る玉といふとも酒飲みて心を遣るに豈かめやも

        0347 世間よのなかの遊びの道にあまねきは酔哭するにありぬべからし

        0348 今代このよにしたぬしくあらば来生こむよには虫に鳥にもあれは成りなむ

        0349 生まるれば遂にも死ぬるものにあれば今生このよなる間は楽しくを有らな

        0350 黙然もだ居りて賢しらするは酒飲みて酔泣するになほ及かずけり

        沙弥満誓が歌一首

        0351 世間よのなかを何に譬へむ朝開き榜ぎにし船の跡なきごとし

        若湯座王わかゆゑのおほきみの歌一首

        0352 葦辺あしへにはたづ鳴きて湊風寒く吹くらむ津乎つをの崎はも

        釋通觀ほうしつぐわむが歌一首

        0353 み吉野の高城たかきの山に白雲は行きはばかりて棚引けり見ゆ

        日置少老へきのをおゆが歌一首

        0354 なはの浦に塩焼くけぶり夕されば行き過ぎかねて山に棚引く

        生石村主真人おふしのすくりまひとが歌一首

        0355 大汝おほなむぢ少彦名すくなびこないましけむ志都しつ石室いはやは幾代経ぬらむ

        上古麻呂かみのふるまろが歌一首

        0356 今日もかも明日香の川の夕さらずかはづ鳴く瀬のさやけかるらむ

        山部宿禰赤人が歌六首

        0357 繩の浦ゆ背向そがひに見ゆる沖つ島榜ぎむ舟は釣しすらしも

        0358 武庫の浦を榜ぎ廻む小舟をぶね粟島を背向に見つつともしき小舟

        0359 阿倍の島鵜の住む磯に寄する波間なくこのごろ大和し思ほゆ

        0360 潮干なば玉藻苅り籠め家の浜苞はまつと乞はば何を示さむ

        0361 秋風の寒き朝開あさけ狭野さぬの岡越ゆらむ君に衣貸さましを

        0362 雎鳩みさご居る磯廻いそみに生ふる名乗藻なのりその名はらしてよ親は知るとも

        或ル本ノ歌ニ曰ク

         0363 雎鳩居る荒磯に生ふる名乗藻のよし名は告らせ親は知るとも

        笠朝臣金村鹽津しほつ山にてよめる歌二首

        0364 大夫ますらを弓末ゆすゑ振り起こし射つる矢を後見む人は語り継ぐがね

        0365 鹽津山打ち越え行けばが乗れる馬ぞ躓く家恋ふらしも

        角鹿津つぬがのつにて船に乗れる時、笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌みじかうた

        0366 越の海の 角鹿の浜ゆ 大舟に 真楫まかぢき下ろし    勇魚いさな取り 海路うみぢに出でて あべきつつ 我が榜ぎ行けば    大夫ますらをの 手結たゆひが浦に 海未通女あまをとめ 塩焼くけぶり    草枕 旅にしあれば 独りして 見るしるし無み    海神わたつみの 手に巻かしたる 玉たすき 懸けて偲ひつ 大和島根を

        反し歌

        0367 越の海の手結の浦を旅にして見ればともしみ大和偲ひつ

        石上大夫いそのかみのまへつきみが歌一首

        0368 大船に真楫まかぢしじ貫き大王の命畏み磯廻するかも

        和ふる歌一首

        0369 物部もののふおみ壮士をとこは大王のまけまにまに聞くといふものぞ

        右、作者審カナラズ。但シ笠朝臣金村ノ歌集ノ中ニ出デタリ。

        安倍廣庭の卿の歌一首

        0370 小雨降り*とのぐもる夜を濡れ湿づと恋ひつつ居りき君待ちがてり

        出雲守いづものかみ門部王かどべのおほきみみやこしぬひたまふ歌一首

        0371 飫宇おうの海の河原の千鳥が鳴けば我が佐保川さほかはの思ほゆらくに

        山部宿禰赤人が春日野かすがぬに登りてよめる歌一首、また短歌

        0372 春日はるひを 春日かすがの山の 高座たかくらの 御笠の山に    朝さらず 雲居たなびき 容鳥かほとりの 間なくしば鳴く    雲居なす 心いさよひ その鳥の 片恋のみに    昼はも 日のことごと よるはも のことごと    立ちて居て 思ひぞがする 逢はぬ子故に

        反し歌

        0373 高座の三笠の山に鳴く鳥の止めば継がるる恋もするかも

        石上乙麻呂朝臣いそのかみのおとまろのあそみの歌一首

        0374 雨降らば着なむとへる笠の山人にな着しめ濡れはづとも

        湯原王ゆはらのおほきみの芳野にてよみたまへる歌一首

        0375 吉野なる夏実なつみの川の川淀に鴨ぞ鳴くなる山影にして

        湯原王の宴のときの歌二首

        0376 蜻蛉羽あきづはの袖振る妹を玉くしげ奥に思ふを見たまへ我君わぎみ

        0377 青山の嶺の白雲朝にに常に見れどもめづらし我君わぎみ

        山部宿禰赤人が、おひてたまへる太政大臣おほきまつりごとのおほまへつきみの藤原の家の山池いけを詠める歌一首

        0378 昔し旧き堤は年深み池の渚に水草みくさ生ひにけり

        大伴坂上郎女おほとものさかのへのいらつめ祭神かみまつりの歌一首、また短歌

        0379 久かたの 天の原より し 神の命    奥山の 賢木さかきの枝に 白紙しらが付く 木綿ゆふ取り付けて    斎瓮いはひへを 斎ひ掘り据ゑ 竹玉たかたまを しじき垂り    ししじもの 膝折り伏せ 手弱女たわやめの おすひ取り懸け    かくだにも あれひなむ 君に逢はぬかも

        反し歌

        0380 木綿畳ゆふたたみ手に取り持ちてかくだにもあれは祈ひなむ君に逢はぬかも

        右ノ歌ハ、天平五年冬十一月ヲ以テ、大伴ノ氏ノ神ニ供ヘ祭ル時、聊カ此歌ヲ作ル。故レ祭神歌ト曰フ。

        筑紫娘子つくしをとめ行旅たびゆきひとに贈れる歌一首 娘子、字ヲ兒島ト曰フ

        0381 家ふと心進むな風伺かぜまもり好くしていませ荒きその路

        筑波岳つくはねに登りて、丹比真人国人たぢひのまひとくにひとがよめる歌一首、また短歌

        0382 鶏が鳴く あづまの国に 高山は さはにあれども    双神ふたかみの 貴き山の 並み立ちの 見が欲し山と    神代より 人の言ひ継ぎ 国見する 筑波の山を    冬こもり 時じく時と 見ずて行かば ましてこひしみ    雪消ゆきけする 山道すらを なづみぞ

        反し歌

        0383 筑波嶺をよそのみ見つつありかねて雪消の道をなづみるかも

        山部宿禰赤人が歌一首

        0384 我が屋戸に韓藍からゐ蒔きほし枯れぬれど懲りずて亦も蒔かむとそ

        仙柘枝ひじりのつみのえの歌三首

        0385 霰降り吉志美きしみたけさがしみと草取りかねて妹が手を取る

        右ノ一首ハ、或ルヒト云ク、吉野ノ人味稲ウマシネノ柘枝仙媛ニ与フル歌ナリ。

        0386 この夕へつみのさ枝の流れやなは打たずて取らずかもあらむ

        右一首。

        0387 古に梁打つ人の無かりせばここにもあらまし柘の枝はも

        右ノ一首ハ、若宮年魚麻呂ワカミヤノアユマロガ作。

        羇旅たびの歌一首、また短歌

        0388 海神わたつみは あやしきものか 淡路島 中に立て置きて    白波を 伊豫にもとほし 居待月ゐまちつき 明石の門ゆは    夕されば 潮を満たしめ 明けされば 潮をしむ    潮騒の 波を恐み 淡路島 磯隠いそがくり居て    いつしかも この夜の明けむ とさもらふに の寝かてねば    たぎの 浅野のきぎし 明けぬとし 立ちとよむらし    いざ子ども あべて榜ぎ出む 庭も静けし

        反し歌

        0389 島伝ひ敏馬みぬめの崎を榜ぎめば大和こほしく鶴さはに鳴く

        右ノ歌ハ、若宮年魚麻呂之ヲ誦メリ。但シ作者ヲ審ラカニセズ。

        譬喩歌たとへうた

        紀皇女きのひめみこの御歌一首

        0390 輕の池の浦廻うらみもとほる鴨すらも玉藻の上に独り寝なくに

        筑紫観世音寺造りの別当かみ沙弥満誓が歌一首

        0391 鳥総とぶさ立て足柄山に船木ふなき伐り木に伐りきつあたら船木を

        太宰大監おほみこともちのおほきまつりごとひと大伴宿禰百代が梅の歌一首

        0392 ぬば玉のその夜の梅を忘れて折らず来にけり思ひしものを

        満誓沙弥まむぜいさみが月の歌一首

        0393 見えずともたれ恋ひざらめ山の端にいさよふ月をよそに見てしか

        金明軍こむのみやうぐむが歌一首

        0394 しめ結ひて我が定めてし住吉すみのえの浜の小松は後も我が松

        笠郎女かさのいらつめ大伴宿禰家持おほとものすくねやかもちに贈れる歌三首

        0395 託馬野つくまぬに生ふる紫草むらさきころもめ未だ着ずして色に出でにけり

        0396 陸奥みちのく真野まぬ草原かやはら遠けども面影にして見ゆちふものを

        0397 奥山の磐本菅いはもとすげを根深めて結びし心忘れかねつも

        藤原朝臣八束やつかが梅の歌二首

        0398 妹がに咲きたる梅の何時も何時も成りなむ時に事は定めむ

        0399 妹がに咲きたる花の梅の花実にし成りなばかもかくもせむ

        大伴宿禰駿河麻呂するがまろが梅の歌一首

        0400 梅の花咲きて散りぬと人は言へど我が標結ひし枝ならめやも

        大伴坂上郎女が、親族うがらと宴する日、うたへる歌一首

        0401 山守やまもりのありける知らにその山に標結ひ立ててゆひの恥しつ

        大伴宿禰駿河麻呂が即ち和ふる歌一首

        0402 山守はけだしありとも我妹子わぎもこが結ひけむ標を人解かめやも

        大伴宿禰家持が同じ坂上さかのへの家の大嬢おほいらつめに贈れる歌一首

        0403 朝にに見まく欲しけきその玉を如何にしてかも手ゆれざらむ

        娘子をとめが佐伯宿禰赤麿にこたふる贈歌うた一首

        0404 ちはやぶる神のやしろし無かりせば春日の野辺に粟蒔かましを

        佐伯宿禰赤麿がまた贈れる歌一首

        0405 春日野に粟蒔けりせば鹿しし待ちに継ぎて行かましを社し有りとも

        娘子がまた報ふる歌一首

        0406 は祭る神にはあらず大夫ますらをに憑きたる神ぞよく祭るべき

        大伴宿禰駿河麻呂が同じ坂上の家の二嬢おといらつめつまどふ歌一首

        0407 春霞はるかすみ春日の里の殖小水葱うゑこなぎ苗なりと言ひしはさしにけむ

        大伴宿禰家持が同じ坂上の家の大嬢に贈れる歌一首

        0408 石竹なでしこがその花にもが朝旦あさなさな手に取り持ちて恋ひぬ日なけむ

        大伴宿禰駿河麻呂が同じ坂上の家の二嬢おといらつめに贈れる歌一首

        0409 一日には千重波敷きに思へどもなぞその玉の手に巻き難き

        大伴坂上郎女が橘の歌一首

        0410 橘を屋戸に植ゑほせ立ちて居て後に悔ゆともしるしあらめやも

        大伴宿禰駿河麻呂が和ふる歌一首

        0411 我妹子が屋戸の橘いと近く植ゑてし故に成らずは止まじ

        市原王いちはらのおほきみの歌一首

        0412 いなだき著統きすめる玉は二つ無しかにもかくにも君がまにまに

        それの歌二首

        0436 人言ひとごとの繁きこの頃玉ならば手に巻き持ちて恋ひざらましを

        0437 妹もあれ清御きよみの川の川岸の妹が悔ゆべき心は持たじ

        大網公人主おほあみのきみひとぬしが宴にうたへる歌一首

        0413 須磨の海人の塩焼衣しほやききぬ藤衣ふぢころも間遠くしあれば未だ着馴れず

        大伴宿禰家持が歌一首

        0414 足引の岩根こごしみすがの根を引かばかたみと標のみそ結ふ

        挽歌かなしみうた

        上宮聖徳皇子うへのみやのしやうとこのみこ竹原井たかはらゐ出遊いでませる時、龍田山にみまかれる人をみそなはして悲傷かなしみよみませる御歌一首

        0415 家にあらば妹が手かむ草枕旅にやせるこの旅人たびとあはれ

        大津皇子被死つみなはえたまへる時、磐余いはれの池のつつみにて流涕かなしみよみませる御歌一首

        0416 つぬさはふ*磐余の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ

        右、藤原宮、朱鳥元年冬十月。

        河内王かはちのおほきみ豊前国とよくにのみちのくち鏡山にはふれる時、手持女王たもちのおほきみのよみたまへる歌三首

        0417 おほきみ親魄むつたまあへや豊国の鏡の山を宮と定むる

        0418 豊国の鏡の山の石戸いはとこもりにけらし待てど来まさぬ

        0419 石戸手力たぢからもがも手弱たわやにしあればすべの知らなく


          2006-12-9 18:06:19
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          安倍晴冰
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          石田王(いはたのおほきみ)()せたまへる時、丹生王(にふのおほきみ)のよみたまへる歌一首、また短歌

          0420 なゆ竹の (とを)寄る皇子 さ丹頬(にづら)ふ 我が大王(おほきみ)    隠国(こもりく)の 初瀬の山に 神さびて (いつ)(いま)すと    玉づさの 人ぞ言ひつる 妖言(およづれ)か ()が聞きつる    狂言(たはこと)か ()が聞きつるも 天地に 悔しきことの    世間(よのなか)の 悔しきことは 天雲の そくへの極み    天地の 至れるまでに 杖つきも つかずも行きて    夕占(ゆふけ)問ひ 石卜(いしうら)以ちて 我が屋戸に 御室(みもろ)を建てて    枕辺に 斎瓮(いはひへ)を据ゑ 竹玉(たかたま)を 無間(しじ)()き垂り    木綿(ゆふ)たすき (かひな)に懸けて (あめ)なる ささらの小野の    (いは)(すげ) 手に取り持ちて 久かたの (あま)の川原に    出で立ちて (みそ)ぎてましを 高山の (いはほ)の上に (いま)せつるかも

          反し歌

          0421 逆言(およづれ)狂言(たはこと)とかも高山の巌の上に君が臥やせる

          0422 石上(いそのかみ)布留(ふる)の山なる杉群(すぎむら)の思ひ過ぐべき君にあらなくに

          同じ〔石田王卒之〕時、山前王(やまくまのおほきみ)哀傷(かなし)みよみたまへる歌一首

          0423 つぬさはふ 磐余の道を 朝さらず 行きけむ人の    思ひつつ 通ひけまくは 霍公鳥(ほととぎす) 来鳴く五月(さつき)    菖蒲(あやめぐさ) 花橘を 玉に貫き (かづら)にせむと    九月(ながつき)の しぐれの時は 黄葉(もみちば)を 折り挿頭(かざ)さむと    ()(くず)の いや遠長く 万代に 絶えじと思ひて    通ひけむ 君を明日よは (よそ)にかも見む

          或ル本ノ反歌二首

           0424 隠国(こもりく)泊瀬娘子(はつせをとめ)が手に巻ける玉は乱れてありと言はずやも

           0425 川風の寒き長谷(はつせ)を嘆きつつ君が歩くに似る人も逢へや

          柿本朝臣人麻呂が香具山にて(みまかれるひと)を見て悲慟(かなし)みよめる歌一首

          0426 草枕旅の宿りに誰が(つま)か国忘れたる家待たなくに

          田口廣麿が(みまか)れる時、刑部垂麻呂(おさかべのたりまろ)がよめる歌一首

          0427 百足らず八十(やそ)隈坂(くまぢ)手向(たむけ)せば過ぎにし人にけだし逢はむかも

          土形娘子(ひぢかたのをとめ)を泊瀬山に火葬(やきはふ)れる時、柿本朝臣人麻呂がよめる歌一首

          0428 隠国の泊瀬の山の山際(やまのま)にいさよふ雲は妹にかもあらむ

          溺れ死ねる出雲娘子(いづもをとめ)を吉野に火葬(やきはふ)れる時、柿本朝臣人麿がよめる歌二首

          0429 山際(やまのま)ゆ出雲の子らは霧なれや吉野の山の嶺にたなびく

          0430 八雲さす出雲の子らが黒髪は吉野の川の沖になづさふ

          勝鹿(かつしか)真間娘子(ままをとめ)が墓を(とほ)れる時、山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌

          0431 古に ありけむ人の 倭文幡(しつはた)の 帯解き交へて    臥屋(ふせや)建て 妻問(つまどひ)しけむ 勝鹿の 真間の手兒名(てこな)    奥津城(おくつき)を こことは聞けど 真木の葉や 茂みたるらむ    松が根や 遠く久しき 言のみも 名のみも我は 忘らえなくに

          反し歌

          0432 我も見つ人にも告げむ勝鹿の真間の手兒名が奥津城ところ

          0433 勝鹿の真間の入江に打ち靡く玉藻苅りけむ手兒名し思ほゆ

          和銅四年(よとせといふとし)辛亥(かのとゐ)三穂の浦を過ぐる時、姓名がよめる歌二首*

          0434 風早(かざはや)の美保の浦廻の白躑躅(しらつつじ)見れども(さぶ)し亡き人思へば

          0435 みつみつし久米の若子(わかご)がい()りけむ磯の草根の枯れまく惜しも

          神亀(じむき)五年(いつとせといふとし)戊辰(つちのえたつ)、太宰帥大伴の卿の故人(すぎにしひと)思恋(しぬ)ひたまふ歌三首

          0438 (うつく)しき人の()きてし敷布(しきたへ)()が手枕を纏く人あらめや

          右ノ一首ハ、別去テ数旬ヲ経テ作メル歌。

          0439 帰るべき時は来にけり都にて誰が手本(たもと)をか()が枕かむ

          0440 都なる荒れたる家に独り寝ば旅にまさりて苦しかるべし

          右ノ二首ハ、京ニ向フ時ニ臨近キテ作メル歌。

          〔神亀〕六年(むとせといふとし)己巳(つちのとみ)左大臣(ひだりのおほまへつきみ)長屋王の(つみなへ)賜へる後、倉橋部女王(くらはしべのおほきみ)のよみたまへる歌一首

          0441 大皇(おほきみ)の命畏み大殯(おほあらき)の時にはあらねど雲隠り()

          膳部王(かしはでべのおほきみ)悲傷(かなし)める歌一首

          0442 世間(よのなか)は空しきものとあらむとぞこの照る月は満ち欠けしける

          右ノ一首ハ、作者(ヨミヒト)未詳(シラズ)

          天平(てむひやう)元年(はじめのとし)己巳(つちのとみ)攝津国(つのくに)班田(あがちだ)史生(ふみひと)丈部龍麻呂(はせつかべのたつまろ)自経死(わなき)し時、判官(まつりごとひと)大伴宿禰三中(みなか)がよめる歌一首、また短歌

          0443 天雲の 向伏(むかふ)す国の 武士(ますらを)と 言はえし人は    皇祖(すめろき)の 神の御門に 外重(とのへ)に 立ち(さもら)    内重(うちのへ)に 仕へ(まつ)り 玉葛 いや遠長く    (おや)の名も 継ぎ行くものと 母父(おもちち)に 妻に子どもに    語らひて 立ちにし日より 足根(たらちね)の 母の(みこと)    斎瓮(いはひへ)を 前に据ゑ置きて 一手(ひとて)には 木綿(ゆふ)取り持ち    一手には 和細布(にきたへ)(まつ)り 平けく ま(さき)くませと    天地の 神に()()み 如何にあらむ 年月日にか    躑躅花(つつじばな) にほへる君が にほ鳥の なづさひ来むと    立ちて居て 待ちけむ人は (おほきみ)の 命畏み    押し照る 難波の国に あら玉の 年経るまでに    白布(しろたへ)の 衣袖(ころもて)干さず 朝宵に ありつる君は    いかさまに 思ひませか うつせみの 惜しきこの世を    露霜の 置きて()にけむ 時ならずして

          反し歌

          0444 昨日こそ君は在りしか思はぬに浜松の()の雲に棚引く

          0445 いつしかと待つらむ妹に玉づさの言だに告げず()にし君かも

          〔天平〕二年(ふたとせといふとし)庚午(かのえうま)冬十二月(しはす)太宰帥大伴の卿の(みやこ)に向きて上道(みちだち)する時によみたまへる歌五首

          0446 我妹子が見し鞆之浦(とものうら)天木香樹(むろのき)は常世にあれど見し人ぞなき

          0447 鞆之浦の磯の杜松(むろのき)見むごとに相見し妹は忘らえめやも

          0448 磯の()に根()ふ室の木見し人をいかなりと問はば語り告げむか

          右ノ三首ハ、鞆浦ヲ過ル日ニ作メル歌。

          0449 妹と()し敏馬の崎を帰るさに独りし見れば涙ぐましも

          0450 行くさには二人我が見しこの崎を独り過ぐれば心悲しも

          右ノ二首ハ、敏馬埼ヲ過ル日ニ作メル歌。

          故郷(もと)の家に還入(かへ)りて即ちよみたまへる歌三首

          0451 人もなき空しき家は草枕旅にまさりて苦しかりけり

          0452 妹として二人作りし()山斎(しま)木高(こだか)く繁くなりにけるかも

          0453 我妹子が植ゑし梅の木見るごとに心()せつつ涙し流る

          〔天平〕三年(みとせといふとし)辛未(かのとひつじ)秋七月(ふみつき)、大納言大伴の卿の(うせたま)へる時の歌六首(むつ)

          0454 ()しきやし栄えし君のいましせば昨日も今日も()を召さましを

          0455 かくのみにありけるものを萩が花咲きてありやと問ひし君はも

          0456 君に恋ひ(いた)もすべ無み葦鶴(あしたづ)の哭のみし泣かゆ朝宵にして

          0457 遠長く仕へむものと思へりし君し()さねば心神(こころど)もなし

          0458 若き子の()徘徊(たもとほ)り朝夕に哭のみそ()が泣く君なしにして

          右の五首(いつうた)は、資人(つかひびと)金明軍が犬馬の慕心に()へず、感緒(かなしみ)()べてよめる歌

          0459 見れど飽かず(いま)しし君がもみち葉の移りい()けば悲しくもあるか

          右の一首(ひとうた)は、内礼正(うちのゐやのかみ)縣犬養宿禰人上(あがたのいぬかひのすくねひとかみ)(のりご)ちて、卿の病を検護せしむ。而して医薬験無く、逝く水留まらず。これに因りて悲慟(かなし)みて即ち此歌をよめり。

          七年(ななとせといふとし)乙亥(きのとのゐ)、大伴坂上郎女が尼の理願(りぐわむ)死去(みまか)れるを悲嘆(かなし)み、よめる歌一首、また短歌

          0460 栲綱(たくつぬ)の 新羅(しらき)の国ゆ 人言(ひとごと)を 良しと聞かして    問ひ()くる 親族(うがら)兄弟(はらがら) 無き国に 渡り来まして    大皇(おほきみ)の 敷き()す国に うち日さす 都しみみに    里家は (さは)にあれども いかさまに 思ひけめかも    連れもなき 佐保の山辺に 泣く子なす 慕ひ来まして    敷布(しきたへ)の 家をも造り あら玉の 年の緒長く    住まひつつ いまししものを 生まるれば 死ぬちふことに    (のが)ろえぬ ものにしあれば 恃めりし 人のことごと    草枕 旅なる(ほと)に 佐保川を 朝川渡り    春日野を 背向(そがひ)に見つつ 足引の 山辺をさして    晩闇(くらやみ)と 隠りましぬれ 言はむすべ 為むすべ知らに    徘徊(たもとほ)り ただ独りして 白布(しろたへ)の 衣袖(ころもて)干さず    嘆きつつ ()が泣く涙 有間山 雲居棚引き 雨に降りきや

          反し歌

          0461 留めえぬ命にしあれば敷布の家ゆは出でて雲(がく)りにき

          右、新羅ノ国ノ尼、名ヲ理願ト曰フ。遠ク王徳ヲ感ジテ聖朝ニ帰化ス。時ニ大納言大将軍大伴卿ノ家ニ寄住シ、既ニ数紀ヲ経タリ。惟ニ天平七年乙亥ヲ以テ、忽ニ運病ニ沈ミテ、既ニ泉界ニ趣ク。是ニ大家石川命婦、餌薬ノ事ニ依リテ有間温泉ニ往キテ、此ノ喪ニ会ハズ。但郎女独リ留リテ屍柩ヲ葬送スルコト既ニ訖リヌ。仍チ此ノ歌ヲ作ミテ温泉ニ贈入(オク)ル。

          十一年(ととせまりひととせといふとし)己卯(つちのとう)夏六月(みなつき)、大伴宿禰家持が(みまか)れる()悲傷(かなし)みよめる歌一首

          0462 今よりは秋風寒く吹きなむを如何でか独り長き夜を寝む

          (おと)大伴宿禰書持(ふみもち)が即ち和ふる歌一首

          0463 長き夜を独りや寝むと君が言へば過ぎにし人の思ほゆらくに

          又家持が(みぎり)()瞿麦(なでしこ)の花を見てよめる歌一首

          0464 秋さらば見つつ偲へと妹が植ゑし屋戸の石竹(なでしこ)咲きにけるかも

          (かは)りて後、秋風を悲嘆(かなし)みて家持がよめる歌一首

          0465 うつせみの世は常なしと知るものを秋風寒く偲ひつるかも

          又家持がよめる歌一首、また短歌

          0466 我が屋戸に 花ぞ咲きたる そを見れど 心もゆかず    ()しきやし 妹がありせば 御鴨(みかも)なす 二人並び居    手折りても 見せましものを うつせみの 借れる身なれば    露霜の ()ぬるがごとく 足引の 山道をさして    入日なす 隠りにしかば そこ()ふに 胸こそ痛め    言ひもかね 名づけも知らに 跡も無き 世間(よのなか)なれば 為むすべもなし

          反し歌

          0467 時はしもいつもあらむを心痛くい()我妹(わぎも)か若き子置きて

          0468 出で行かす道知らませば予め妹を留めむ(せき)も置かましを

          0469 妹が見し屋戸に花咲く時は経ぬ()が泣く涙いまだ干なくに

          悲緒(かなしみ)()まずてまたよめる歌五首

          0470 かくのみにありけるものを妹も(あれ)も千歳のごとく恃みたりけり

          0471 家(ざか)りいます我妹を留みかね山(がく)りつれ心神(こころど)もなし

          0472 世間し常かくのみとかつ知れど痛き心は(しぬ)ひかねつも

          0473 佐保山に棚引く霞見るごとに妹を思ひ出泣かぬ日はなし

          0474 昔こそ(よそ)にも見しか我妹子が奥津城と()へば()しき佐保山

          十六年(ととせまりむとせといふとし)甲申(きのえさる)春二月(きさらき)安積皇子(あさかのみこ)(すぎたま)へる時、内舎人(うちとねり)大伴宿禰家持がよめる歌六首

          0475 かけまくも あやに畏し 言はまくも ゆゆしきかも    我が(おほきみ) 御子の(みこと) 万代に ()したまはまし    大日本(おほやまと) 久迩(くに)の都は 打ち靡く 春さりぬれば    山辺には 花咲きををり 川瀬には 鮎子さ(ばし)    いや日異(ひけ)に 栄ゆる時に 逆言(およづれ)の 狂言(たはこと)とかも    白布(しろたへ)に 舎人装ひて 和束(わづか)山 御輿(みこし)立たして    久かたの 天知らしぬれ ()(まろ)び (ひづ)ち泣けども 為むすべもなし

          反し歌

          0476 我が(おほきみ)天知らさむと思はねば(おほ)にぞ見ける和束杣山(わづかそまやま)

          0477 足引の山さへ光り咲く花の散りぬるごとき我が王かも

          右ノ三首ハ、二月三日ニ作メル歌。

          0478 かけまくも あやに畏し 我が王 皇子の命    物部(もののふ)の 八十伴男(やそとものを)を 召し集へ (あども)ひたまひ    朝猟(あさがり)に 鹿猪(しし)踏み起こし 夕猟(ゆふがり)に 鶉雉(とり)踏み立て    大御馬(おほみま)の 口抑へとめ 御心を ()し明らめし    活道(いくぢ)山 木立の(しじ)に 咲く花も うつろひにけり    世間(よのなか)は かくのみならし 大夫(ますらを)の 心振り起こし    剣刀(つるぎたち) 腰に取り佩き 梓弓 (ゆき)取り負ひて    天地と いや遠長に 万代に かくしもがもと    恃めりし 皇子の御門の 五月蝿(さばへ)なす 騒く舎人は    白栲(しろたへ)に 衣取り着て 常なりし (ゑま)ひ振舞ひ    いや日異に 変らふ見れば 悲しきろかも

          反し歌

          0479 ()しきかも皇子の命のあり(がよ)()しし活道の道は荒れにけり

          0480 大伴の名に負ふ(ゆき)帯びて万代に(たの)みし心いづくか寄せむ

          右ノ三首ハ、三月二十四日ニ作メル歌。

          ()せたる()悲傷(かなし)み高橋朝臣がよめる歌一首、また短歌

          0481 白布(しろたへ)の 袖さし交へて 靡き寝し 我が黒髪の    ま白髪に 変らむ極み 新世(あらたよ)に 共にあらむと    玉の緒の 絶えじい妹と 結びてし 言は果たさず    思へりし 心は遂げず 白布の 手本を別れ    (にき)びにし 家ゆも出でて 緑児(みどりこ)の 泣くをも置きて    朝霧(あさきり)の 髣髴(おほ)になりつつ 山背(やましろ)の 相楽(さがらか)山の    山際(やまのま)ゆ 往き過ぎぬれば 言はむすべ 為むすべ知らに    我妹子と さ寝し妻屋に 朝庭に 出で立ち偲ひ    夕べには 入り居嘆かひ 脇はさむ 子の泣くごとに    男じもの 負ひみ(うだ)きみ 朝鳥の ()のみ泣きつつ    恋ふれども (しるし)を無みと 言問はぬ ものにはあれど    我妹子が 入りにし山を (よすか)とぞ思ふ

          反し歌

          0482 うつせみの世のことなれば(よそ)に見し山をや今は(よすか)と思はむ

          0483 朝鳥の啼のみし泣かむ我妹子に今また更に逢ふよしを無み

          右ノ三首ハ、七月廿日、高橋朝臣ガ作メル歌。

            2006-12-9 18:06:44
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            安倍晴冰
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            訓読万葉集 巻4 ―鹿持雅澄『萬葉集古義』による―


            巻第四よまきにあたるまき

            相聞したしみうた

            難波天皇なにはのすめらみことみいもの、山跡やまといま皇兄すめらみことのいろせのみこと奉上たてまつれる御歌一首ひとつ

            0484 一日こそ人をも待ちし*長きをかくのみ待てば有りかてなくも

            岳本天皇をかもとのすめらみことのみよみませる御製歌おほみうた一首、また短歌みじかうた

            0485 神代より れ継ぎ来れば 人さはに 国には満ちて    あぢむらの 騒きはゆけど* が恋ふる 君にしあらねば    昼は 日の暮るるまで よるは の明くる極み    思ひつつ いねかてにのみ 明かしつらくも 長きこの夜を

            反し歌

            0486 山の端にあぢ群騒き行くなれどあれさぶしゑ君にしあらねば

            0487 近江路の鳥籠とこの山なる不知哉川いさやがはのこの頃は恋ひつつもあらむ

            額田王ぬかたのおほきみ近江天皇しぬひまつりてよみたまへる歌一首

            0488 君待つとが恋ひ居れば我が屋戸の簾動かし秋の風吹く

            鏡女王のよみたまへる歌一首

            0489 風をだに恋ふるはともし風をだに来むとし待たば何か嘆かむ

            吹黄刀自ふきのとじが歌二首

            0490 真野まぬの浦の淀の継橋心ゆも思へや妹がいめにし見ゆる

            0491 河上のいつ藻の花のいつもいつも来ませ我が背子時じけめやも

            田部忌寸櫟子たべのいみきいちひこ太宰おほみこともちのつかさけらるる時の歌四首

            0492 衣手に取りとどこほり泣く子にも益れるあれを置きて如何にせむ 舎人千年*

            0493 置きてゆかば妹恋ひむかも敷細しきたへの黒髪敷きて長きこの夜を 田部忌寸櫟子

            0494 吾妹子わぎもこを相知らしめし人をこそ恋の増されば恨めしみ

            0495 朝日影にほへる山に照る月の飽かざる君を山越しに置きて

            柿本朝臣人麻呂が歌四首

            0496 み熊野の浦の浜木綿百重なす心はへどただに逢はぬかも

            0497 古にありけむ人もがごとか妹に恋ひつついねかてにけむ

            0498 今のみのわざにはあらず古の人ぞ益りてにさへ泣きし

            0499 百重にも来かぬかもと思へかも君が使の見れど飽かざらむ

            碁檀越ごのだむをちが伊勢国に往く時、留まれるがよめる歌一首

            0500 神風かむかぜの伊勢の浜荻折り伏せて旅寝や為らむ荒き浜辺に

            柿本朝臣人麻呂が歌三首

            0501 処女をとめらが袖布留ふる山の瑞垣みづかきの久しき時ゆ思ひき我は

            0502 夏野ゆく牡鹿をしかつぬの束の間も妹が心を忘れてへや

            0503 織衣ありきぬ*さゐさゐしづみ家のに物言はずにて思ひかねつも

            柿本朝臣人麻呂がの歌一首

            0504 君がが住坂の家道をもあれは忘らじ命死なずは

            安倍女郎あべのいらつめが歌二首

            0505 今更に何をか思はむ打ち靡き心は君に寄りにしものを

            0506 我が背子は物な思ひそ事しあらば火にも水にもあれ無けなくに

            駿河采女するがのうねべが歌一首

            0507 敷細しきたへの枕ゆくくる涙にそ浮寝をしける恋の繁きに

            三方沙弥みかたのさみが歌一首

            0508 衣手のかる今宵ゆ妹もあれいたく恋ひむな逢ふよしを無み

            丹比真人笠麻呂が筑紫国に下る時よめる歌一首、また短歌

            0509 臣女おみのめの 櫛笥くしげいつ* 鏡なす 御津の浜辺に    さ丹頬にづらふ 紐解き放けず 吾妹子わぎもこに 恋ひつつ居れば    明け暮れの 朝霧がくり 鳴くたづの のみし泣かゆ    が恋ふる 千重の一重も 慰むる 心も有れやと    家のあたり が立ち見れば 青旗の 葛城かつらき山に    棚引ける 白雲隠り 天ざかる ひなの国辺に    ただ向ふ 淡路を過ぎ 粟島を 背向そがひに見つつ    朝凪に 水手かこの声呼び 夕凪に 楫のしつつ    波のを い行きさぐくみ 岩の間を い行きもとほり    稲日都麻いなびつま 浦廻を過ぎて 鳥じもの なづさひ行けば    家の島 荒磯の上に 打ち靡き しじに生ひたる    名告藻なのりそ* などかも妹に らず来にけむ

            反し歌

            0510 白妙の袖解き交へて帰り来む月日をみて往きてましを

            伊勢国にいでませる時、當麻麻呂たぎまのまろ大夫まへつきみのよめる歌一首

            0511 我が背子はいづく行くらむ沖つ藻の名張の山を今日か越ゆらむ

            草嬢うかれめ*が歌一首

            0512 秋の田の穂田ほたの刈りばかか寄り合はばそこもか人のを言成さむ

            志貴皇子の御歌一首

            0513 大原のこのいつ柴のいつしかとふ妹に今宵逢へかも

            阿倍女郎が歌一首

            0514 我が背子がせる衣の針目落ちず入りにけらしな我が心さへ

            中臣朝臣東人あづまひとが阿倍女郎に贈れる歌一首

            0515 独り寝て絶えにし紐を忌々ゆゆしみと為むすべ知らに哭のみしぞ泣く

            阿倍女郎が答ふる歌一首

            0516 が持たる三筋みつあひに搓れる糸もちて付けてましもの今ぞ悔しき

            大納言おほきものまをしのつかさ 大将軍おほきいくさのきみ かけたる大伴のまへつきみの歌一首

            0517 神樹かむきにも手は触るちふをうつたへに人妻といへば触れぬものかも

            石川郎女が歌一首

            0518 春日野の山辺の道を随身よそり無く通ひし君が見えぬ頃かも

            大伴女郎が歌一首

            0519 雨障あまつつみ常せす君は久かたの昨夜きその雨に懲りにけむかも

            後の人の追ひてなぞらふる歌一首

            0520 久かたの雨も降らぬか雨つつみ君にたぐひてこの日暮らさむ

            藤原宇合うまかひの大夫が遷任されてみやこに上る時、常陸娘子ひたちをとめが贈れる歌一首

            0521 庭に立ち麻を刈り干し重慕しきしぬ*東女あづまをみなを忘れたまふな

            京職大夫みさとつかさのかみ藤原の大夫まへつきみ大伴坂上郎女おほとものさかのへのいらつめおくれる歌三首

            0522 娘子らが玉匣たまくしげなる玉櫛たまくしの魂むも妹に逢はずあれば

            0523 よく渡る人は年にもありちふをいつの程そもが恋ひにける

            0524 蒸衾むしぶすま なこやが下に臥せれども妹とし寝ねば肌し寒しも

            大伴坂上郎女がこたふる歌四首

            0525 佐保川の小石さざれ踏み渡りぬば玉の黒馬くろまは年にもあらぬか

            0526 千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波やむ時もなしが恋ふらくは

            0527 来むと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを

            0528 千鳥鳴く佐保の川門かはとの瀬を広み打橋渡すが来と思へば

            右郎女ハ、佐保大納言卿ノ女ナリ。初メ一品ヒトツノシナ穂積皇子ニ嫁ギ、寵被ルコトタグヒ無シ。皇子スギマシシ後、藤原麻呂大夫郎女ヲツマドフ。郎女坂上ノ里ニ家ス。仍レ族氏ウヂヲ坂上郎女トフナリ。

            また大伴坂上郎女が歌一首

            0529 佐保川の岸の高処つかさの柴な刈りそね在りつつも春し来たらば立ち隠るがね

            天皇海上女王うなかみのおほきみに賜へる御歌おほみうた一首

            0530 赤駒の越ゆる馬柵うませしめ結ひし妹が心は疑ひも無し

            右、今案フルニ、此ノ歌擬古ノ作ナリ。但往当便ヲ以テ斯ノ歌ヲ賜ヘルカ。

            海上女王のこたへ奉る歌一首

            0531 梓弓つまひく夜音よと遠音とほとにも君が御言を聞かくしよしも

            大伴宿奈麻呂宿禰おほとものすくなまろのすくねが歌二首

            0532 打日さす宮に行く子をま悲しみ留むは苦し遣るはすべなし

            0533 難波潟潮干のなごり飽くまでに人の見む子をあれともしも

            安貴王あきのおほきみの歌一首、また短歌

            0534 遠妻の ここに在らねば 玉ほこの 道をた遠み    思ふそら 安からなくに 嘆くそら 安からぬものを    み空行く 雲にもがも 高飛ぶ 鳥にもがも    明日往きて 妹に言問ひ が為に 妹も事無く    妹が為 あれも事無く 今も見しごと たぐひてもがも

            反し歌

            0535 敷細しきたへの手枕まかず間置きて年そ経にける逢はなくへば

            右、安貴王、因幡八上釆女ヲ娶リ、係念極テ甚シク、愛情尤モ盛ナリ。時ニ勅シテ不敬ノ罪ニ断ジ、本郷ニ退却シリゾク。是ニ王意悼怛、聊カ此歌ヲ作メリト。

            門部王の恋の歌一首

            0536 飫宇おうの海の潮干の潟の片思かたもひに思ひやゆかむ道の長手を

            右、門部王、出雲守ニマケラル時、部内クヌチノ娘子ヲ娶ル。未ダ幾時モ有ラズ、既ニ往来絶ユ。累月ノ後、更ニ愛心ヲ起コス。仍レ此歌ヲ作ミテ娘子ニ贈致オクレリ。

            高田女王の今城王いまきのおほきみに贈りたまへる歌六首むつ

            0537 言清くいともな言ひそ一日だに君いし無くばしぬへぬもの*

            0538 人言ひとごとを繁み言痛こちたみ逢はざりき心あるごとな思ひ我が背子

            0539 我が背子し遂げむと言はば人言は繁くありとも出でて逢はましを

            0540 我が背子にまたは逢はじかと思へばか今朝の別れのすべなかりつる

            0541 現世このよには人言繁し来生こむよにも逢はむ我が背子今ならずとも

            0542 常やまず通ひし君が使ひ来ず今は逢はじと動揺たゆたひぬらし

            神亀じむき元年はじめのとし 甲子きのえね冬十月かみなつき、紀伊国にいでませる時、従駕みともの人に贈らむ為、娘子にあつらへらえて笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌

            0543 天皇おほきみの 行幸いでましのまに 物部もののふの 八十伴男やそとものをと    出でゆきし うつくつまは あま飛ぶや 軽の路より    玉たすき 畝火を見つつ あさもよし 紀路に入り立ち    真土山 越ゆらむ君は 黄葉もみちばの 散り飛ぶ見つつ    親しけく をば思はず 草枕 旅をよろしと    思ひつつ 君はあらむと あそそには かつは知れども    しかすがに もだも得あらねば 我が背子が 行きのまにまに    追はむとは 千たび思へど 手弱女たわやめの が身にしあれば    道守みちもりの 問はむ答を 言ひ遣らむ すべを知らにと 立ちてつまづく

            反し歌

            0544 後れ居て恋ひつつあらずば紀の国の妹背の山にあらましものを

            0545 我が背子が跡踏み求め追ひゆかば紀の関守い留めなむかも

            二年ふたとせといふとし 乙丑きのとのうし 春三月やよひ三香原みかのはら離宮とつみやに幸せる時、娘子を得て、笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌

            0546 三香の原 旅の宿りに 玉ほこの 道の行き逢ひに    天雲の よそのみ見つつ 言問はむ よしの無ければ    心のみ 咽せつつあるに 天地の 神事依せて    敷細しきたへの 衣手ころもてへて 己妻おのつまと 恃める今宵    秋の夜の 百夜ももよの長さ ありこせぬかも

            反し歌

            0547 天雲の外に見しより我妹子に心も身さへ寄りにしものを

            0548 この夜らの早く明けなばすべを無み秋の百夜を願ひつるかも

            五年いつとせといふとし 戊辰つちのえたつ太宰おほきみこともち少弐すなきすけ石川足人たりひとの朝臣が遷任みやこにめさるるとき、筑前国つくしのみちのくちのくに 蘆城あしき駅家はゆまやうまのはなむけする歌三首

            0549 天地の神も助けよ草枕旅ゆく君が家に至るまで

            0550 大船の思ひ頼みし君がなばあれは恋ひむなただに逢ふまでに

            0551 大和道の島の浦廻に寄する波あひだも無けむが恋ひまくは

            右の三首みうたは、作者未詳よみひとしらず

            大伴宿禰三依みよりが歌一首

            0552 我が君はわけをば死ねと思へかも逢ふ夜逢はぬ夜二つゆくらむ

            丹生女王にふのおほきみ太宰帥おほきみこともちのかみ大伴のまへつきみに贈りたまへる歌二首

            0553 天雲の遠隔そくへの極み遠けども心し行けば恋ふるものかも

            0554 古りにし人のたばせる吉備の酒病めばすべなし貫簀ぬきすたばらむ

            太宰帥大伴の卿の大弐おほきすけ丹比縣守たぢひのあがたもりの卿の民部卿たみのつかさのかみ遷任さるるに歌一首

            0555 君がためみし待酒まちさけ安の野に独りや飲まむ友無しにして

            賀茂女王かものおほきみの大伴宿禰三依に贈りたまへる歌一首

            0556 筑紫船いまだも来ねば予め荒ぶる君を見むが悲しさ

            土師宿禰水道はにしのすくねみみちが筑紫より京に上る海路うみつぢにてよめる歌二首

            0557 大船を榜ぎの進みに岩にかへらば覆れ妹に因りてば

            0558 ちはやぶる神のやしろが懸けしぬさたばらむ妹に逢はなくに

            太宰の大監おほきまつりごとひと大伴宿禰百代が恋の歌四首

            0559 事もなくしものを老次おいなみにかかる恋にもあれは逢へるかも

            0560 恋ひ死なむ後は何せむ生ける日のためこそ妹を見まく欲りすれ

            0561 思はぬを思ふと言はば大野なる三笠の杜の神し知らさむ

            0562 いとま無く人の眉根まよねいたづらに掻かしめつつも逢はぬ妹かも

            大伴坂上郎女が歌二首

            0563 黒髪に白髪しろかみ交り老ゆまでにかかる恋には未だ逢はなくに

            0564 山菅の実ならぬことを我に寄せ言はれし君はたれとからむ

            賀茂女王の歌一首

            0565 大伴の見つとは言はじ茜さし照れる月夜つくよに直に逢へりとも

            太宰の大監大伴宿禰百代等が駅使はゆまつかひに贈れる歌二首

            0566 草枕旅ゆく君をうつくしみたぐひてぞ来し志賀しかの浜辺を

            右の一首ひとうたは、大監大伴宿禰百代。

            0567 周防すはうなる磐國山を越えむ日は手向たむけよくせよ荒きその道

            右の一首は、少典すなきふみひと山口忌寸若麻呂。以前天平二年庚午夏六月、帥大伴卿、忽ニ瘡ヲ脚ニ生シ、枕席ニ疾苦ス。此ニ因テ駅ヲ馳セテ上奏シ、庶弟稲公、姪胡麻呂ニ遺言ヲ語ラムコトヲ望請フ。右兵庫助大伴宿禰稲公、治部少丞大伴宿禰胡麻呂ノ両人ニ勅シテ、駅ヲ給ヒ発遣シ、卿ノ病ヲ看シム。数旬ヲ逕テ幸ニ平復ヲ得。時ニ稲公等病既ニ療タルヲ以テ、府ヲ発チ京ニ上ル。是ニ大監大伴宿禰百代、少典山口忌寸若麻呂、及ビ卿ノ男家持等、駅使ヲ相送ル。共ニ夷守ノ駅家ニ到リ、聊カ飲シテ別ヲ悲シム。乃チ此歌ヲ作メリ。

            太宰帥大伴の卿の大納言おほきものまをしのつかさされ、京に入らむとする時、府官人つかさひと等、卿を筑前国蘆城駅家に餞する歌四首

            0568 み崎荒磯ありそに寄する五百重いほへ波立ちても居ても我がへる君

            右の一首は、筑前のまつりごとひと門部連かどべのむらじ石足いそたり

            0569 宮人の*衣染むとふ紫の心に染みて思ほゆるかも

            0570 大和に君が発つ日の近づけば野に立つ鹿もどよみてぞ鳴く

            右の二首は、大典おほきふみひと麻田連陽春あさだのむらじやす

            0571 月夜よし川音かはと清けしいざここに行くも行かぬも遊びて行かむ

            右の一首は、防人佑さきもりのまつりごとひと大伴四綱よつな

            太宰帥大伴の卿の京に上りたまへる後、沙弥満誓さみのまむぜいが卿に贈れる歌二首

            0572 真澄鏡まそかがみ見飽かぬ君に後れてやあした夕べにびつつ居らむ

            0573 ぬば玉の黒髪変り白けても痛き恋には逢ふ時ありけり

            大納言大伴の卿のこたへたまへる歌二首

            0574 ここに在りて筑紫やいづく白雲の棚引く山の方にしあるらし

            0575 草香江の入江にあさる葦鶴あしたづのあなたづたづし友無しにして

            太宰帥大伴の卿の京に上りたまひし後、筑後守つくしのみちのしりのかみ 葛井連大成ふぢゐのむらじおほなり悲嘆なげきてよめる歌一首

            0576 今よりはの山道はさぶしけむが通はむと思ひしものを

            大納言大伴の卿の、新しきうへのきぬ攝津大夫つすぶるかみ高安王に贈りたまへる歌一首

            0577 我が衣人にな着せそ網引あびきする難波壮士なにはをとこの手には触れれど

            大伴宿禰三依が悲別わかれの歌一首

            0578 天地と共に久しく住まはむと思ひてありし家の庭はも

            金明軍こむのみやうぐむが大伴宿禰家持にたてまつれる歌二首

            0579 見まつりて未だ時だに変らねば年月のごと思ほゆる君

            0580 足引の山に生ひたるすがの根のねもごろ見まく欲しき君かも

            大伴坂上おほとものさかのへの家の大娘おほいらつめが大伴宿禰家持にこたへ贈れる歌四首

            0581 生きてあらば見まくも知らに何しかも死なむよ妹と夢に見えつる

            0582 丈夫ますらをもかく恋ひけるを幼婦たわやめの恋ふる心にたぐへらめやも

            0583 月草の移ろひやすく思へかもふ人の言も告げ来ぬ

            0584 春日山朝立つ雲の居ぬ日なく見まくの欲しき君にもあるかも

            大伴坂上郎女が歌一首

            0585 出でてなむ時しはあらむを殊更に妻恋しつつ立ちて去ぬべしや

            大伴宿禰稲公田村大嬢に贈れる歌一首

            0586 相見ずは恋ひざらましを妹を見てもとなかくのみ恋ひは如何にせむ

            右、一云あるはいふ、姉坂上郎女がよめる。

            笠女郎が大伴宿禰家持に贈れる歌廿四首はたちまりよつ

            0587 我が形見見つつ偲はせ荒玉の年の緒長く我も偲はむ

            0588 白鳥の飛羽とば山松の待ちつつぞが恋ひ渡るこの月ごろを

            0589 衣手を折りむ里に*あるあれを知らずぞ人は待てど来ずける

            0590 あら玉の年の経ぬれば今しはとゆめよ我が背子我が名らすな

            0591 我が思ひを人に知らせや玉くしげ開きあけつといめにし見ゆる

            0592 闇の夜に鳴くなるたづよそのみに聞きつつかあらむ逢ふとはなしに

            0593 君に恋ひいたもすべ無み奈良山の小松がもとに立ち嘆くかも

            0594 我が屋戸の夕蔭草ゆふかげくさの白露のぬがにもとな思ほゆるかも

            0595 我が命のまたけむ限り忘れめやいや日にには思ひ増すとも

            0596 八百日やほか往く浜の真砂まなごが恋にあに勝らじか沖つ島守

            0597 うつせみの人目を繁み石橋いはばしの間近き君に恋ひ渡るかも

            0598 恋にもぞ人は死にする水無瀬川みなせがは下ゆ我痩す月に日に

            0599 朝霧のおほに相見し人故に命死ぬべく恋ひ渡るかも

            0600 伊勢の海の磯もとどろに寄する波畏き人に恋ひ渡るかも

            0601 心ゆもはざりき山河も隔たらなくにかく恋ひむとは

            0602 夕されば物ひ増さる見し人の言問ふ姿面影にして

            0603 思ふにし死にするものにあらませば千たびぞ我は死に還らまし

            0* 剣太刀つるぎたち身に取り添ふと夢に見つ何のしるしそも君に逢はむため

            0605 天地の神しことわり無くばこそ我がふ君に逢はず死にせめ

            0606 我も思ふ人もな忘れ多奈和丹*浦吹く風のやむ時無かれ

            0607 人皆を*寝よとの鐘は打つなれど君をしへばねがてぬかも

            0608 相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼のしりへぬかづく如し

            0609 心ゆもはざりき又更に我が故郷に還り来むとは

            0610 近くあれば見ねどもあるをいや遠く君がいまさば有りかてましも

            右の二首は、相別わかれて後また来贈おくれるなり。

            大伴宿禰家持が和ふる歌二首

            0611 今更に妹に逢はめやと思へかもここだ我が胸欝悒おほほしからむ

            0612 中々にもだもあらましを何すとか相見めけむ遂げざらなくに

            山口女王の大伴宿禰家持に贈りたまへる歌五首

            0613 物ふと人に見えじと生強なましひに常に思へど有りそかねつる

            0* 相思はぬ人をやもとな白妙の袖づまでに哭のみし泣かも

            0615 我が背子は相はずとも敷細しきたへの君が枕は夢に見えこそ

            0616 剣太刀名の惜しけくもあれはなし君に逢はずて年の経ぬれば

            0617 葦辺より満ち来る潮のいや増しに思へか君が忘れかねつる


              2006-12-9 18:09:22
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              安倍晴冰
              帅哥哟,离线,有人找我吗?
                
              身份:领民
              言论:12
              入籍:2006年11月5日
              发贴心情

              大神郎女おほみわのいらつめが大伴宿禰家持に贈れる歌一首

              0618 さ夜中に友呼ぶ千鳥物ふと侘び居る時に鳴きつつもとな

              大伴坂上郎女が怨恨うらみの歌一首、また短歌

              0619 押し照る 難波の菅の ねもころに 君が聞こして    年深く 長くし言へば 真澄鏡 ぎし心を    ゆるしてし その日の極み 波のむた 靡く玉藻の    かにかくに 心は持たず 大船の 頼める時に    ちはやぶる 神やけけむ うつせみの 人かふらむ    通はしし 君も来まさず 玉づさの 使も見えず    なりぬれば いたもすべ無み ぬば玉の 夜はすがらに    赤ら引く 日も暮るるまで 嘆けども しるしを無み    思へども たつきを知らに 幼婦たわやめと 言はくもしるく    小童たわらはの 哭のみ泣きつつ 徘徊たもとほり 君が使を 待ちやかねてむ

              反し歌

              0620 初めより長く言ひつつ恃めずはかかる思ひに逢はましものか

              西海道にしのうみつぢ節度使せどし判官まつりごとひと佐伯宿禰東人あづまひとの君に贈れる歌一首

              0621 間無く恋ふれにかあらむ草枕旅なる君が夢にし見ゆる

              佐伯宿禰東人が和ふる歌一首

              0622 草枕旅に久しく成りぬればをこそ思へな恋ひそ我妹わぎも

              池邊王いけべのおほきみの宴にうたひたまへる歌一首

              0623 松の葉に月はゆつりぬ黄葉もみちばの過ぎしや君が逢はぬ夜多み

              天皇すめらみこと酒人女王さかひとのおほきみしぬはしてみよみませる御製歌おほみうた一首

              0* 道に逢ひて笑まししからに降る雪のなば消ぬがに恋ひ*我妹

              高安王の、つつめる鮒を娘子に贈りたまへる歌一首

              0625 沖辺ゆき辺にゆき今や妹がため我がすなどれる藻臥もふし束鮒つかふな

              八代女王やしろのおほきみの天皇に献らせる歌一首

              0626 君により言の繁きを故郷の明日香の川に禊ぎしにゆく

              佐伯宿禰赤麻呂が娘子に贈れる歌一首*

              0630 初花の散るべきものを人言の繁きによりて澱む頃かも

              娘子が佐伯宿禰赤麻呂に報贈こたふる歌一首

              0627 我が手本たもとまかむとはむ大夫ますらを恋水なみだに沈み*白髪生ひにけり

              佐伯宿禰赤麻呂が和ふる歌一首

              0628 白髪生ふることは思はじ恋水なみだをばかにもかくにも求めて行かむ

              大伴四綱が宴席うたげの歌一首

              0629 何すとか使の来たる君をこそかにもかくにも待ちてにすれ

              湯原王の娘子に贈りたまへる歌二首

              0631 愛想うはへなき物かも人はしかばかり遠き家路を帰せし思へば

              0632 目には見て手には取らえぬ月内つきぬちかつらのごとき妹をいかにせむ

              娘子が報贈こたふる歌二首

              0633 いかばかり思ひけめかも敷細しきたへの枕片去る夢に見え来し

              0* 家にして見れど飽かぬを草枕旅にもつまのあるがともしさ

              湯原王のまたたまへる歌二首

              0635 草枕旅には妻はたらめど櫛笥くしげの内の珠とこそ思へ

              0636 我が衣形見にまつる敷細の枕らさず巻きてさ寝ませ

              娘子がまた報贈ふる歌一首

              0637 我が背子が形見の衣嬬問つまどひに我が身はけじ言問はずとも

              湯原王のまた贈へる歌一首

              0638 ただ一夜隔てしからに荒玉の月か経ぬると思ほゆるかも*

              娘子がまた報贈ふる歌一首

              0639 我が背子がかく恋ふれこそぬば玉の夢に見えつつ寐ねらえずけれ

              湯原王のまた贈へる歌一首

              0640 しけやし間近き里を雲居にや恋ひつつ居らむ月も経なくに

              娘子がまた報贈ふる和歌うた一首

              0641 絶ゆと言はば侘しみせむと焼大刀やきたちへつかふことはからしや吾君わぎみ

              湯原王の歌一首

              0642 吾妹子わぎもこに恋ひて乱れば反転くるべきに懸けて寄さむとが恋ひそめし

              紀郎女怨恨うらみの歌三首

              0643 世間よのなかにしあらばただ渡り*痛背あなしの川を渡りかねめや

              0* 今はは侘びそしにけるいきの緒に思ひし君をゆるさくへば

              0645 白妙の袖別るべき日を近み心に咽び哭のみし泣かゆ

              大伴宿禰駿河麻呂が歌一首

              0646 丈夫の思ひ侘びつつ遍多たびまねく嘆く嘆きを負はぬものかも

              大伴坂上郎女が歌一首

              0647 心には忘るる日無く思へども人の言こそ繁き君にあれ

              大伴宿禰駿河麻呂が歌一首

              0648 相見ずて長くなりぬこの頃はいかにさきくや欝悒いふかし我妹

              大伴坂上郎女が歌一首

              0649 ふ葛の*絶えぬ使の澱めれば事しもあるごと思ひつるかも

              右、坂上郎女ハ、佐保大納言卿ノ女ナリ。駿河麻呂ハ、此ノ高市大卿ノ孫ナリ。両卿ハ兄弟ノ家、女孫姑姪ノ族ナリ。是ヲ以テ歌ヲ題シ送リ答ヘ、起居ヲ相問フ。

              大伴宿禰三依がわかれてまたへるを歓ぶ歌一首

              0650 我妹子は常世の国に住みけらし昔見しより変若をちましにけり

              大伴坂上郎女が歌二首

              0651 久かたの天の露霜置きにけり家なる人も待ち恋ひぬらむ

              0652 玉主たまもりに珠は授けて且々かつがつも枕と我はいざ二人寝む

              大伴宿禰駿河麻呂が歌三首

              0653 心には忘れぬものを偶々も見ぬ日さまねく月ぞ経にける

              0* 相見ては月も経なくに恋ふと言はば虚言をそろあれを思ほさむかも

              0655 思はぬを思ふと言はば天地の神も知らさむ邑礼左変*

              大伴坂上郎女が歌六首

              0656 あれのみぞ君には恋ふる我が背子が恋ふとふことは言のなぐさぞ

              0657 思はじと言ひてしものを唐棣はねず色の移ろひやすき我が心かも

              0658 思へども験もなしと知るものを如何でここだくが恋ひ渡る

              0659 予め人言繁しかくしあらばしゑや我が背子奥も如何にあらめ

              0660 をとを人そくなるいで吾君わぎみ人の中言聞きこすなゆめ

              0661 恋ひ恋ひて逢へる時だにうるはしき言尽してよ長しとはば

              市原王の歌一首

              0662 網児あごの山五百重いほへ隠せる佐堤さての崎小網さでへし子が夢にし見ゆる

              安都宿禰年足あとのすくねとしたりが歌一首

              0663 佐保渡り我家わぎへの上に鳴く鳥の声なつかしきしき妻の子

              大伴宿禰像見かたみが歌一首

              0* 石上いそのかみ降るとも雨につつまめや妹に逢はむと言ひてしものを

              安倍朝臣蟲麻呂が歌一首

              0665 向ひ居て見れども飽かぬ我妹子に立ち別れゆかむたづき知らずも

              大伴坂上郎女が歌二首

              0666 相見ずて幾許いくばく久もあらなくにここだくあれは恋ひつつもあるか

              0667 恋ひ恋ひて逢ひたるものを月しあれば夜はこもるらむしましはあり待て

              右、大伴坂上郎女ガ母石川内命婦ト、安倍朝臣蟲滿ガ母安曇外命婦トハ、同居ノ姉妹、同気ノハラカラナリ。此ニ縁テ郎女ト蟲滿ト、相見ルコト踈カラズ、相談ラフコト既ニ密ナリ。聊カ戯歌ヲ作ミテ以テ問答ヲ為ス。

              厚見王の歌一首

              0668 朝に日に色づく山の白雲の思ひ過ぐべき君にあらなくに

              春日王の歌一首

              0669 足引の山橘の色に出でて語らば継ぎて逢ふこともあらむ

              娘子が湯原王に贈れる歌一首*

              0670 月読つくよみの光に来ませ足引の山を隔てて遠からなくに

              湯原王の和へたまへる歌一首

              0671 月読の光は清く照らせれど惑へる心堪へじとぞ

              安倍朝臣蟲麻呂が歌一首

              0672 しづたまき数にもあらぬ我が身もち如何でここだくが恋ひ渡る

              大伴坂上郎女が歌二首

              0673 真澄鏡まそかがみぎし心をゆるしてば後に言ふとも験あらめやも

              0* 真玉つく彼此をちこち兼ねて言ひは言へど逢ひて後こそ悔はありといへ

              中臣女郎が大伴宿禰家持に贈れる歌五首

              0675 をみなへし佐紀沢に生ふる花かつみ嘗ても知らぬ恋もするかも

              0676 わたの底おきを深めて我がへる君には逢はむ年は経ぬとも

              0677 春日山朝居る雲のおほほしく知らぬ人にも恋ふるものかも

              0678 ただに逢ひて見てばのみこそ玉きはる命に向ふが恋やまめ

              0679 いなと言はば強ひめや我が背菅の根の思ひ乱れて恋ひつつもあらむ

              大伴宿禰家持が交遊ともと久しく別るる歌三首

              0680 けだしくも人の中言聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ

              0681 中々に絶ゆとし言はばかくばかりいきの緒にしてが恋ひめやも

              0682 思ふらむ人にあらなくにねもごろに心尽して恋ふる我かも

              大伴坂上郎女が歌七首

              0683 物言ひの畏き国ぞ紅の色にな出でそ思ひ死ぬとも

              0* 今はは死なむよ我が背生けりとも我に依るべしと言ふと言はなくに

              0685 人言を繁みや君を二鞘の家を隔てて恋ひつつ居らむ

              0686 この頃は千歳や行きも過ぎにしと我やしかふ見まく欲りかも

              0687 うるはしとふ心速川のせきくとも猶やえなむ

              0688 青山を横ぎる雲のいちしろく我と笑まして人に知らゆな

              0689 海山も隔たらなくに何しかも目言をだにもここだ乏しき

              大伴宿禰三依が悲別わかれの歌一首

              0690 照らす日を闇に見なして泣く涙衣濡らしつ干す人無しに

              大伴宿禰家持が娘子に贈れる歌二首

              0691 ももしきの大宮人は多けども心に乗りて思ほゆる妹

              0692 愛想うはへ無き妹にもあるかもかく許り人の心を尽せるへば

              大伴宿禰千室ちむろが歌一首

              0693 かくのみに恋ひやわたらむ秋津野に棚引く雲の過ぐとはなしに

              廣河女王の歌二首

              0* 恋草を力車に七車積みて恋ふらく我が心から

              0695 恋は今はあらじとあれは思へるをいづくの恋ぞつかみかかれる

              石川朝臣廣成が歌一首

              0696 家人に恋過ぎめやもかはづ鳴く泉の里に年の経ぬれば

              大伴宿禰像見が歌三首

              0697 が聞きに懸けてな言ひそ刈薦かりこもの乱れて思ふ君が直香ただか

              0698 春日野に朝居る雲のしくしくには恋ひ増さる月に日に

              0699 一瀬には千たびさやらひ逝く水の後にも逢はむ今ならずとも

              大伴宿禰家持が娘子の門に到りてよめる歌一首

              0700 かくしてや猶や罷らむ近からぬ道の間をなづみまゐ来て

              河内百枝娘子かふちのももえをとめが大伴宿禰家持に贈れる歌二首

              0701 はつはつに人を相見て如何にあらむいづれの日にかまたよそに見む

              0702 ぬば玉のその夜の月夜今日までにあれは忘れず間無くしへば

              巫部麻蘇娘子かむこべのまそをとめが歌二首

              0703 我が背子を相見しその日今日までに我が衣手はる時もなし

              0704 栲縄たくなはの長き命を欲しけくは絶えずて人を見まく欲りこそ

              大伴宿禰家持が童女をとめに贈れる歌一首

              0705 葉根蘰はねかづら今せす妹を夢に見て心の内に恋ひ渡るかも

              童女が来報こたふる歌一首

              0706 葉根蘰今せる妹は無きものを*いづれの妹ぞここだ恋ひたる

              粟田娘子あはたのをとめが大伴宿禰家持に贈れる歌二首

              0707 思ひ遣るすべの知らねば片椀かたもひの底にぞあれは恋ひ成りにける

              0708 またも逢はむよしもあらぬか白妙の我が衣手にいはひ留めむ

              豊前国とよくにのみちのくちの娘子大宅女おほやけめが歌一首

              0709 夕闇は道たづたづし月待ちてませ我が背子その間にも見む

              安都扉娘子あとのとびらのをとめが歌一首

              0710 み空行く月の光にただ一目相見し人の夢にし見ゆる

              丹波大女娘子たにはのおほめをとめが歌三首

              0711 鴨鳥の遊ぶこの池に木の葉散りて浮かべる心はなくに

              0712 味酒うまさけを三輪のはふりいはふ杉手触りし罪か君に逢ひ難き

              0713 垣穂なす人言聞きて我が背子が心たゆたひ逢はぬこの頃

              大伴宿禰家持が娘子に贈れる歌七首

              0714 心には思ひ渡れどよしをなみ外のみにして嘆きぞがする

              0715 千鳥鳴く佐保の川門かはとの清き瀬を馬うち渡しいつか通はむ

              0716 夜昼といふわき知らにが恋ふる心はけだし夢に見えきや

              0717 つれもなくあるらむ人を片思かたもひあれは思へばめぐしくもあるか*

              0718 思はぬに妹が笑まひを夢に見て心の内に燃えつつぞ居る

              0719 丈夫と思へるあれをかくばかりみつれにみつれ片思をせむ

              0720 むら肝の心砕けてかくばかりが恋ふらくを知らずかあるらむ

              天皇すめらみことに献れる歌一首

              0721 足引の山にし居れば風流みさを無み*我がせるわざを咎め給ふな

              大伴宿禰家持が歌一首

              0722 かくばかり恋ひつつあらずば石木いはきにも成らましものを物はずして

              大伴坂上郎女が跡見とみたどころより、宅に留まれる女子むすめ大嬢おほいらつめに贈れる歌一首、また短歌

              0723 常世にと が行かなくに 小金門をかなとに 物悲しらに    思へりし 我が子の刀自を ぬば玉の 夜昼といはず    思ふにし 我が身は痩せぬ 嘆くにし 袖さへ濡れぬ    かくばかり もとなし恋ひば 古里に この月ごろも 有りかてましを

              反し歌

              0724 朝髪の思ひ乱れてかくばかり汝姉なねが恋ふれそ夢に見えける

              天皇に献れる歌二首

              0725 にほ鳥の潜く池水心あらば君にが恋ふる心示さね

              0726 よそに居て恋ひつつあらずば君がの池に住むとふ鴨にあらましを

              大伴宿禰家持が坂上の家の大嬢に贈れる歌二首 離リ絶エタルコト数年、復会ヒテ相聞往来ス。

              0727 忘れ草が下紐に付けたれどしこの醜草言にしありけり

              0728 人も無き国もあらぬか我妹子と携さひ行きてたぐひて居らむ

              大伴坂上大嬢が大伴宿禰家持に贈れる歌三首

              0729 玉ならば手にも巻かむをうつせみの世の人なれば手に巻き難し

              0730 逢はむ夜はいつもあらむを何すとかその宵逢ひて言の繁きも

              0731 が名はも千名ちな五百名いほなに立ちぬとも君が名立てば惜しみこそ泣け

              また大伴宿禰家持が和ふる歌三首

              0732 今しはし名の惜しけくもあれはなし妹によりてば千たび立つとも

              0733 空蝉の世やもふたゆく何すとか妹に逢はずてが独り寝む

              0734 が思ひかくてあらずば玉にもが真も妹が手に巻かれなむ

              おやじ坂上大嬢が家持に贈れる歌一首

              0735 春日山霞たな引き心ぐく照れる月夜に独りかも寝む

              また家持が坂上大嬢に和ふる歌一首

              0736 月夜には門に出で立ち夕占ゆふけ問ひ足占あうらをぞせし行かまくを

              同じ大嬢が家持に贈れる歌二首

              0737 かにかくに人は言ふとも若狭道の後瀬のちせの山の後も逢はむ君

              0738 世の中の苦しきものにありけらく恋に堪へずて死ぬべきへば

              また家持が坂上大嬢に和ふる歌二首

              0739 後瀬山後も逢はむと思へこそ死ぬべきものを今日までも生けれ

              0740 言のみを後も逢はむとねもころにあれを頼めて逢はぬ妹かも*

              また大伴宿禰家持が坂上大嬢に贈れる歌十五首とをあまりいつつ

              0741 夢の逢ひは苦しかりけりおどろきて掻き探れども手にも触れねば

              0742 一重のみ妹が結ばむ帯をすら三重結ぶべくが身はなりぬ

              0743 が恋は千引ちびきいはを七ばかり首に懸けむも神のまにまに

              0744 夕さらば屋戸開けけてあれ待たむ夢に相見に来むといふ人を

              0745 朝宵に見む時さへや我妹子が見とも見ぬごとなほ恋しけむ

              0746 生ける世にはいまだ見ず言絶えてかくおもしろく縫へる袋は

              0747 我妹子が形見の衣下に着て直に逢ふまではあれ脱かめやも

              0748 恋ひ死なむそこもおやじぞ何せむに人目人言辞痛こちたがせむ

              0749 夢にだに見えばこそあれかくばかり見えずてあるは恋ひて死ねとか

              0750 思ひ絶え侘びにしものを中々に如何で苦しく相見そめけむ

              0751 相見ては幾日いくかも経ぬを幾許ここだくも狂ひに狂ひ思ほゆるかも

              0752 かくばかり面影にのみ思ほえば如何にかもせむ人目繁くて

              0753 相見てばしましく恋はなぎむかと思へどいよよ恋ひ増さりけり

              0754 夜のほどろて来れば我妹子が思へりしくし面影に見ゆ

              0755 夜のほどろ出でつつ来らく度多たびまねくなればが胸断ち焼くごとし

              大伴の田村の家の大嬢が妹坂上大嬢に贈れる歌四首

              0756 よそに居て恋ふれば苦し我妹子を継ぎて相見む事計ことはかりせよ

              0757 遠からば侘びてもあらむ里近くありと聞きつつ見ぬがすべ無さ

              0758 白雲の棚引く山の高々にふ妹を見むよしもがも

              0759 如何にあらむ時にか妹を葎生むぐらふいやしき屋戸に入りいませなむ

              右、田村大嬢ト坂上大嬢ト、并ニ右大弁大伴宿奈麻呂卿ノ女ナリ。卿田村ノ里ニ居レバ、田村大嬢ト号曰ク。但シ妹坂上大嬢ハ、母坂上ノ里ニ居ル、仍テ坂上大嬢ト曰フ。時ニ姉妹、諮問トブラヒテ歌ヲ以テ贈答ス。

              大伴坂上郎女が竹田のたどころより女子むすめの大嬢に贈れる歌二首

              0760 打ち渡す竹田の原に鳴くたづの間なく時なしが恋ふらくは

              0761 早川の瀬に居る鳥のよしを無み思ひてありしが子はも鳴呼あはれ

              紀女郎が大伴宿禰家持に贈れる歌二首 女郎、名ヲ小鹿ヲシカト曰フ

              0762 神さぶといなにはあらずはたやはたかくして後にさぶしけむかも

              0763 玉の緒を沫緒あわをに搓りて結べれば在りて後にも逢はざらめやも

              大伴宿禰家持が和ふる歌一首

              0764 百年ももとせ老舌おいした出でてよよむともあれは厭はじ恋は増すとも

              久迩くにみやこに在りて、寧樂のいへに留まれる坂上大嬢をしぬひて、大伴宿禰家持がよめる歌一首

              0765 一重山へなれるものを月夜よみ門に出で立ち妹か待つらむ

              藤原郎女がこの歌を聞き、即和こたふる歌一首

              0766 路遠み来じとは知れるものからにしかぞ待つらむ君が目を欲り

              大伴宿禰家持がまた大嬢に贈れる歌二首

              0767 都路を遠みか妹がこの頃はうけひてれど夢に見え来ぬ

              0768 今知らす久迩の都に妹に逢はず久しくなりぬ行きて早見な

              大伴宿禰家持が紀女郎に報贈こたふる歌一首

              0769 久かたの雨の降る日を唯独り山辺に居ればいふせかりけり

              大伴宿禰家持が久迩の京より坂上大嬢に贈れる歌五首

              0770 人目多み逢はなくのみそ心さへ妹を忘れてはなくに

              0771 偽りも似つきてそするうつしくもまこと我妹子あれに恋ひめや

              0772 夢にだに見えむとあれうけへども*はざればうべ見えざらむ

              0773 言問はぬ木すらあじさゐ諸茅もろちらが練のむらとにあざむかえけり

              0774 百千遍ももちたび恋ふと言ふとも諸茅らが練のことばあれは頼まじ

              大伴宿禰家持が紀女郎に贈れる歌一首

              0775 鶉鳴く古りにし里ゆ思へども何そも妹に逢ふよしも無き

              紀女郎が家持に報贈ふる歌一首

              0776 言出ことでしは誰が言なるか小山田の苗代水の中淀にして

              大伴宿禰家持がまた紀女郎に贈れる歌五首

              0777 我妹子が屋戸のまがきを見に行かばけだし門より帰しなむかも

              0778 うつたへに籬の姿見まく欲り行かむと言へや君を見にこそ

              0779 板葺いたふきの黒木の屋根は山近し明日の日取りて持ち参り来む

              0780 黒木取り草も刈りつつ仕へめどいそしきわけと誉めむともあらじ

              0781 ぬば玉の昨夜きそは帰しつ今宵さへあれを帰すな路の長手を

              紀女郎が裹物つとを友に贈れる歌一首 女郎、名ヲ小鹿ト曰フ

              0782 風高くには吹けれど妹がため袖さへ濡れて刈れる玉藻そ

              大伴宿禰家持が娘子に贈れる歌三首

              0783 一昨年の先つ年より今年まで恋ふれどなそも妹に逢ひ難き

              0784 うつつには更にも得言はじ夢にだに妹が手本を巻きとし見ば

              0785 我が屋戸の草の白く置く露の命も惜しからず妹に逢はざれば

              大伴宿禰家持が藤原朝臣久須麻呂報贈おくれる歌三首

              0786 春の雨はいやしき降るに梅の花いまだ咲かなくいと若みかも

              0787 夢のごと思ほゆるかもしきやし君が使の数多まねく通へば

              0788 うら若み花咲き難き梅を植ゑて人の言しげみ思ひそがする

              また家持が藤原朝臣久須麻呂に贈れる歌二首

              0789 心ぐく思ほゆるかも春霞たな引く時に言の通へば

              0790 春風の音にし出なば在りさりて今ならずとも君がまにまに

              藤原朝臣久須麻呂が来報こたふる歌二首

              0791 奥山の岩蔭に生ふる菅の根のねもごろ我も相はざれや

              0792 春雨を待つとにしあらし我が屋戸の若木の梅もいまだふふめり


                2006-12-9 18:09:57
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                安倍晴冰
                帅哥哟,离线,有人找我吗?
                  
                身份:领民
                言论:12
                入籍:2006年11月5日
                发贴心情

                訓読万葉集 巻5 ―鹿持雅澄『萬葉集古義』による―


                巻第五いつまきにあたるまき

                雑歌くさぐさのうた

                太宰帥おほみこともちのかみ大伴のまへつきみの凶問に報へたまふ歌一首ひとつ、また序

                禍故重畳かさなり、凶問しきりに集まる。ひたぶるに心を崩す悲しみを懐き、独り腸を断つなみだを流す。但両君の大助に依りて傾命わづかに継ぐのみ。筆言を尽さず。古今歎く所なり。

                0793 世の中は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり

                神亀じむき 五年いつとせといふとし 六月みなつき二十三日はつかまりみかのひ

                筑前守つくしのみちのくちのかみ 山上臣憶良やまのへのおみおくらみまかれる悲傷かなしめるからうた一首、また序*

                盖し聞く、四生の起滅は、夢にあたりて皆空なり。三界の漂流は、環の息まざるに喩ふ。所以に維摩大士は方丈に在りて、疾に染むうれひを懐くこと有り。釋迦能仁は双林に坐し、ないオン*の苦を免るること無しと。故に知る、二聖至極すら、力負のぎて至るを払ふこと能はず。三千世界、誰か能く黒闇の捜り来たるを逃れむ。二鼠にそ競ひ走りて、目をわたる鳥あしたに飛び、四蛇争ひ侵して、隙を過ぐる駒夕に走る。嗟乎ああ痛きかな。紅顏三従と共に長逝し、素質四徳とともに永滅す。何そ図らむ、偕老要期に違ひ、独飛半路に生ぜむとは。蘭室の屏風徒らに張り、断腸の哀しみ弥よ痛し。枕頭の明鏡空しく懸かり、染ヰン*の涙逾よ落つ。泉門一掩すれば、再見に由無し。嗚呼哀しきかな。  愛河の波浪已く先づ滅び  苦海の煩悩また結ぶこと無し  従来此の穢土を厭離す  本願生を彼の浄刹に託せむ

                日本挽歌かなしみのやまとうた一首、また短歌みじかうた

                0794 大王おほきみの 遠の朝廷みかどと しらぬひ 筑紫つくしの国に    泣く子なす 慕ひ来まして 息だにも いまだ休めず    年月も 幾だもあらねば 心ゆも 思はぬ間に    打ち靡き やしぬれ 言はむすべ 為むすべ知らに    岩木をも 問ひけ知らず 家ならば 形はあらむを    恨めしき 妹の命の あれをばも いかにせよとか    にほ鳥の 二人並び居 語らひし 心背きて 家ざかりいます

                反し歌

                0795 家に行きて如何にかがせむ枕付く妻屋さぶしく思ほゆべしも

                0796 しきよしかくのみからに慕ひし妹が心のすべもすべ無さ

                0797 悔しかもかく知らませば青丹よし国内くぬちことごと見せましものを

                0798 妹が見しあふちの花は散りぬべし我が泣く涙いまだなくに

                0799 大野山おほぬやま霧立ち渡る我が嘆く息嘯おきその風に霧立ち渡る

                神亀五年七月ふみつき二十一日はつかまりひとひ筑前国つくしのみちのくちのくにかみ山上憶良たてまつる。

                惑へるこころかへさしむる歌一首、また序

                或る人、父母敬はずして、侍養を忘れ、妻子を顧みざること脱履よりも軽し。自ら異俗先生せむじやうと称る。意気青雲の上に揚がると雖も、身体は猶塵俗の中に在り。未だ修行得道の聖をらず。蓋し是山沢に亡命する民なり。所以かれ三綱を指示しめして、更に五教を開く。遣るに歌を以て、其の惑ひを反さしむ。その歌に曰く、

                0800 父母を 見れば貴し 妻子めこ見れば めぐしうつくし    遁ろえぬ 兄弟はらから親族うがら 遁ろえぬ 老いみいとけみ    朋友ともかきの 言問ひ交はす* 世の中は かくぞことわり    もち鳥の かからはしもよ 早川の* ゆくへ知らねば    穿沓うけぐつを 脱きるごとく 踏み脱きて 行くちふ人は    石木いはきより 成りてし人か が名らさね    あめへ行かば 汝がまにまに つちならば 大王おほきみいます    この照らす 日月ひつきの下は 天雲の 向伏むかふす極み    蟾蜍たにぐくの さ渡る極み 聞こしす 国のまほらぞ    かにかくに 欲しきまにまに しかにはあらじか

                反し歌

                0801 久かたの天道あまぢは遠し黙々なほなほに家に帰りてなりを為まさに

                子等をしぬふ歌一首、また序

                釋迦如来金口こんく正に説きたまへらく、等しく衆生を思ふこと、羅ゴ羅*の如しとのたまへり。又説きたまへらく、愛は子に過ぐること無しとのたまへり。至極の大聖すら、子をうつくしむ心有り。況乎まして世間の蒼生あをひとぐさ、誰か子を愛まざる。

                0802 瓜めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ    いづくより 来りしものぞ 眼交まなかひに もとなかかりて    安眠やすいさぬ

                反し歌

                0803 しろかねくがねも玉も何せむにまされる宝子にしかめやも

                世間よのなかとどまり難きを哀しめる歌一首、また序

                集め易く排し難し、八大辛苦。遂げ難く尽し易し、百年の賞楽。古人の歎きし所、今また及ぶ。所以因かれ一章の歌を作みて、以て二毛の歎きをのぞく。其の歌に曰く、

                0804 世間よのなかの すべなきものは 年月は 流るるごとし    取り続き 追ひ来るものは 百種ももくさに 迫め寄り来たる    娘子をとめらが 娘子さびすと 唐玉を 手本に巻かし    白妙の 袖振り交はし 紅の 赤裳裾引き    よち子らと 手携はりて 遊びけむ 時の盛りを    留みかね 過ぐしやりつれ みなわた か黒き髪に    いつの間か 霜の降りけむ なす おもての上に    いづくゆか 皺か来たりし ますらをの 男さびすと    剣太刀 腰に取り佩き さつ弓を 握り持ちて    赤駒に 倭文鞍しつくらうち置き 這ひ乗りて 遊び歩きし    世間や 常にありける 娘子らが 閉鳴さなす板戸を    押し開き い辿り寄りて 真玉手の 玉手さし交へ    さ寝し夜の いくだもあらねば 手束杖たつかづえ 腰にたがねて    か行けば 人に厭はえ かく行けば 人に憎まえ    老よし男は かくのみならし 玉きはる 命惜しけど 為むすべもなし

                反し歌

                0805 常磐なすかくしもがもと思へども世の事なれば留みかねつも

                神亀五年七月の二十一日、嘉摩かまの郡にて撰定えらぶ。筑前国守山上憶良。

                太宰帥大伴の卿の相聞歌したしみうた二首* 〔脱文〕* 歌詞両首 太宰帥大伴卿

                0806 たつも今も得てしか青丹よし奈良の都に行きて来むため

                0807 うつつには逢ふよしも無しぬば玉の夜のいめにを継ぎて見えこそ

                大伴淡等たびと謹状。

                官氏報ふる歌二首*

                伏して来書をかたじけなくす。つぶさに芳旨を承る。忽ち漢を隔つる恋を成し、復た梁を抱く意を傷む。唯ともしくは、去留恙無く、遂に雲をひらかむことを待つのみ。

                答ふる歌二首

                0808 龍の馬をあれは求めむ青丹よし奈良の都に来む人のたに

                0809 ただに逢はずあらくも多し*敷細しきたへの枕去らずて夢にし見えむ

                姓名謹状。

                かみ大伴の卿の梧桐きり日本琴やまとこと中衛大将なかのまもりのつかさのかみ藤原の卿に贈りたまへる歌二首*

                梧桐の日本琴一面ひとつ 對馬ノ結石山ノ孫枝ナリ 此の琴、夢に娘子をとめりて曰けらく、「われ根を遥島の崇巒すうれむせ、から九陽くやうの休光にさらす。長く烟霞を帯びて、山川のくまに逍遥す。遠く風波を望みて、雁木の間に出入りす。唯百年の後、空しく溝壑こうがくに朽ちなむことを恐れき。たまたま長匠に遭ひて、散りて小琴と為りき。質あらく音少きを顧みず、恒に君子うまひとの左琴とならむことを希ふ」といひて、即ち歌ひけらく、

                0810 いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝のが枕かむ

                われその詩詠うたこたへけらく、

                0811 言問はぬ木にはありともうるはしき君が馴れの琴にしあるべし

                琴の娘子が答曰へらく、「敬みて徳音をうけたまはる。幸甚幸甚」といへり。片時にして覚めたり。即ち夢の言にかまけ、慨然として黙止もだり得ず。かれ公使おほやけつかひに附けて、聊か進御たてまつるのみ。 謹状不具

                天平てんびやう元年十月の七日、使に附けて進上たてまつる。

                謹みて中衛高明閤下たてまつる 謹空。

                中衛大将藤原の卿の報へたまふ歌一首*

                跪きて芳音を承はる。嘉懽こもごも深し。乃ち龍門の恩復た蓬身の上に厚きことを知りぬ。恋望殊念、常心に百倍す。謹みて白雲の什に和へて、野鄙の歌をたてまつる。房前謹状。

                0812 言問はぬ木にもありとも我が背子が手馴れの御琴つちに置かめやも

                十一月八日、還る使大監おほきまつりごとひとに附けて、 謹みて尊門記室にたてまつる。

                山上臣憶良が鎮懐石を詠める歌一首、また短歌*

                筑前国怡土郡いとのこほり 深江村ふかえのむら 子負原こふのはら、海にひたる丘の上に二の石有り。大きなるは長さ一尺ひとさかまり二寸ふたき六分むきだうだき一尺八寸やき六分、重さ十八斤とをまりむはかり 五両いつころ。小さきは長さ一尺一寸、囲き一尺八寸、重さ十六斤十両。並皆みな楕円にして状鶏の子の如し。其の美好うるはしきこと、へて論ふベからず。所謂径尺璧これなり 或は云く、此の二の石は肥前国彼杵郡平敷の石にして、占に当りて取ると。深江の駅家を去ること二十許里はたさとばかり、近く路頭在り。公私の往来、馬より下りて跪拝をろがまざるは莫し。古老相伝へて曰く、往者いにしへ息長足日女おきながたらしひめの命、新羅の国を征討ことむけたまひし時、茲の両の石をもちて御袖の中に挿著さしはさみたまひて、以て鎮懐と為したまふと 実はこれ御裳の中なり所以かれ行人みちゆきひと此の石を敬拝すといへり。乃ち歌よみすらく、

                0813 かけまくは あやに畏し 足日女たらしひめ 神の命    韓国からくにを 向け平らげて 御心を 鎮めたまふと    い取らして いはひたまひし 真玉なす 二つの石を    世の人に 示したまひて 万代に 言ひ継ぐがねと    わたの底 沖つ深江の 海上うなかみの 子負の原に    御手づから 置かしたまひて 神ながら 神さびいます    奇御魂くしみたま 今のをつつに 貴きろかも

                0814 天地のともに久しく言ひ継げとこの奇御魂敷かしけらしも

                右ノ事伝ヘ言フハ、那珂郡伊知郷蓑島ノ人、建部牛麻呂タテベノウシマロナリ。

                太宰帥大伴の卿の宅に宴してよめる*梅の花の歌三十二首みそぢまりふたつ、また序

                天平二年ふたとせといふとし 正月むつき十三日とをかまりみかのひかみおきないへつどひて、宴会をぶ。時に初春の令月、気淑く風和ぐ。梅は鏡前の粉をひらき、蘭は珮後の香を薫らす。加以しかのみにあらず曙は嶺に雲を移し、松はうすきぬを掛けてきぬかさを傾け、夕岫せきしふに霧を結び、鳥はうすもの*こもりて林に迷ふ。庭には舞ふ新蝶あり、空には帰る故雁あり。是に天を盖にし地をしきゐにして、膝を促してさかづきを飛ばし、言を一室のうちに忘れ、衿を煙霞の外に開き、淡然として自放に、快然として自ら足れり。若し翰苑にあらずは、何を以てかこころのベむ*。請ひて落梅の篇をしるさむと。古今それ何ぞ異ならむ。園梅を賦し、聊か短詠みじかうたむベし。

                0815 正月立ち春の来らばかくしこそ梅を折りつつ楽しき終へめ 大弐おほきすけ紀卿

                0816 梅の花今咲けるごと散り過ぎず我がの園にありこせぬかも 少弐すなきすけ小野大夫

                0817 梅の花咲きたる園の青柳はかづらにすべく成りにけらずや 少弐粟田大夫

                0818 春さればまづ咲く屋戸の梅の花独り見つつや春日暮らさむ 筑前守山上大夫

                0819 世の中は恋繁しゑやかくしあらば梅の花にも成らましものを 豊後守とよくにのみちのしりのかみ大伴大夫

                0820 梅の花今盛りなり思ふどち挿頭かざしにしてな今盛りなり 筑後守つくしのみちのしりのかみ葛井大夫

                0821 青柳梅との花を折り挿頭かざし飲みての後は散りぬともよし 某官笠氏沙弥*

                0822 我が園に梅の花散る久かたの天より雪の流れ来るかも 主人あるじ

                0823 梅の花散らくはいづくしかすがにこのの山に雪は降りつつ 大監大伴氏百代*

                0824 梅の花散らまく惜しみ我が園の竹の林に鴬鳴くも 少監すなきまつりごとひと阿氏奥島

                0825 梅の花咲きたる園の青柳を縵にしつつ遊び暮らさな 少監土氏百村

                0826 打ち靡く春の柳と我が屋戸の梅の花とをいかにか分かむ 大典おほきふみひと史氏大原

                0827 春されば木末こぬれがくりて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝しづえ少典すなきふみひと山氏若麻呂

                0828 人ごとに折り挿頭しつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも 大判事おほきことわるつかさ舟氏麻呂

                0829 梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべく成りにてあらずや 薬師くすりし張氏福子さきこ

                0830 万代に年は来経きふとも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし 筑前介佐氏子首こびと

                0831 春なればうべも咲きたる梅の花君を思ふと夜寐よいも寝なくに 壹岐守いきのかみ板氏安麻呂

                0832 梅の花折りて挿頭せる諸人は今日の間は楽しくあるべし 神司かむつかさ荒氏稲布いなふ

                0833 年のはに春の来らばかくしこそ梅を挿頭して楽しく飲まめ 大令おほきふみひと史野氏宿奈麻呂

                0834 梅の花今盛りなり百鳥の声のこほしき春来たるらし 少令すなきふみひと史田氏肥人うまひと

                0835 春さらば逢はむとひし梅の花今日の遊びに相見つるかも 薬師高氏義通

                0836 梅の花手折り挿頭して遊べども飽き足らぬ日は今日にしありけり 陰陽師うらのし磯氏法麻呂

                0837 春の野に鳴くや鴬なつけむと我がの園に梅が花咲く 算師かぞへのし*志氏大道

                0838 梅の花散りまがひたる岡びには鴬鳴くも春かたまけて 大隅目おほすみのふみひと榎氏鉢麻呂もひまろ

                0839 春のに霧立ちわたり降る雪と人の見るまで梅の花散る 筑前目田氏眞人

                0840 春柳かづらに折りし梅の花誰か浮かべし酒坏の壹岐目村氏彼方をちかた

                0841 鴬の音聞くなべに梅の花我ぎ家の園に咲きて知る見ゆ 對馬目高氏老

                0842 我が屋戸の梅の下枝に遊びつつ鴬鳴くも散らまく惜しみ 薩摩目高氏海人

                0843 梅の花折り挿頭しつつ諸人の遊ぶを見れば都しぞ思ふ 土師氏御通

                0844 妹がに雪かも降ると見るまでにここだもまがふ梅の花かも 小野氏国堅

                0845 鴬の待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子が為 筑前拯まつりごとひと門氏石足

                0846 霞立つ長き春日を挿頭せれどいやなつかしき梅の花かも 小野氏淡理

                員外かずよりほか故郷くにしぬふ歌両首ふたつ

                0847 我が盛りいたくくだちぬ雲に飛ぶ薬むともまた変若をちめやも

                0848 雲に飛ぶ薬食むよは都見ばいやしきが身また変若ぬべし

                後に追ひてめるうめのはなの歌四首

                0849 残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪はぬとも

                0850 雪の色を奪ひて咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも

                0851 我が屋戸に盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがも

                0852 梅の花夢に語らく風流みやびたる花とあれふ酒に浮かべこそ

                松浦河まつらがはに遊びて贈り答ふる歌八首、また序

                われ暫く松浦県まつらがたに往きて逍遥し、玉島の潭に臨みて遊覧するに、忽ち魚釣る女子等にへり。花容双び無く、光儀匹ひ無し。柳葉を眉中に開き、桃花を頬上にひらく。意気雲を凌ぎ、風流世に絶えたり。われ問ひけらく、「誰が郷誰が家の児等ぞ。若疑けだし神仙ならむか」。をとめ等皆咲みて答へけらく、「児等は漁夫のいへの児、草菴のいやしき者、郷も無く家も無し。なぞもるに足らむ。唯性水に便り、復た心に山を楽しぶ。或は洛浦に臨みて、徒に王魚をともしみ、あるいは巫峡に臥して空しく烟霞を望む。今邂逅わくらば貴客うまひと相遇ひ、感応に勝へず、輙ち款曲を陳ぶ。今より後、豈に偕老ならざるべけむや」。下官おのれ対ひて曰く、「唯々をを、敬みて芳命をうけたまはりき」。時に日は山西に落ち、驪馬りば去なむとす。遂に懐抱をべ、因て詠みて贈れる歌に曰く、

                0853 漁りする海人の子どもと人は言へど見るに知らえぬ貴人うまひとの子と

                答ふるうたに曰く、

                0854 玉島のこの川上に家はあれど君をやさしみ顕はさずありき

                蓬客等をのれまた贈れる歌三首

                0855 松浦川川の瀬光り鮎釣ると立たせる妹が裳の裾濡れぬ

                0856 松浦なる玉島川に鮎釣ると立たせる子らが家道知らずも

                0857 遠つ人松浦の川に若鮎わかゆ釣る妹が手本を我こそ巻かめ

                娘等をとめらまた報ふる歌三首

                0858 若鮎釣る松浦の川の川波の並にしはば我恋ひめやも

                0859 春されば我家わぎへの里の川門かはどには鮎子さ走る君待ちがてに

                0860 松浦川七瀬の淀は淀むとも我は淀まず君をし待たむ

                後れたる人の追ひてめるうた三首 都帥老*

                0861 松浦川川の瀬早み紅の裳の裾濡れて鮎か釣るらむ

                0862 人皆の見らむ松浦の玉島を見ずてや我は恋ひつつ居らむ

                0863 松浦川玉島の浦に若鮎釣る妹らを見らむ人のともしさ

                吉田連宜よしだのむらじよろしが答ふる歌四首*

                よろしまをす。伏して四月の六日の賜書をうけたまはり、跪きて封函を開き、芳藻を拝読するに、心神の開朗たること、泰初が月をうだきしに似たり。鄙懐の除こること、樂廣が天をひらきしが若し。至若しかのみにあらず、辺域に羇旅し、古旧を懐ひて志を傷ましむ。年矢停まらず、平生を憶ひて涙をながす。但達人は排に安みし、君子は悶り無し。伏してこひねがはくは、朝にきぎし*なつくる化を宣べ、暮に亀を放つ術をたもち、張趙を百代に架し、松喬を千齢に追はむのみ。兼ねて垂示を奉はる、梅苑の芳席、群英藻をのべ*、松浦の玉潭、仙媛の贈答、杏壇各言の作にたぐへ、衡皐税駕の篇になぞらふ。耽読吟諷し、感謝歓怡す。よろし主をしぬふ誠、誠に犬馬に逾ゆ。徳を仰ぐ心、心きつカク*に同じ。而るに碧海地を分ち、白雲天を隔て、徒に傾延を積む。なぞも労緒を慰めむ。孟秋膺節、伏して願はくは万祐日新たむことを。今相撲部領使すまひことりつかひに因りて、謹みて片紙を付く。宜謹みて啓す。不次。

                諸人の梅の花の歌になぞらまつ一首ひとうた

                0864 後れ居て長恋せずは御苑生みそのふの梅の花にも成らましものを

                松浦仙媛まつらをとめの歌に和ふる一首

                0865 君を待つ松浦の浦の娘子らは常世の国の海人娘子かも

                君を思ふこと未だ尽きずてまたしるせる二首うたふたつ

                0866 はろばろに思ほゆるかも白雲の千重に隔てる筑紫の国は

                0867 君がゆき長くなりぬ奈良道なる山斎しまの木立も神さびにけり

                天平二年ふたとせといふとし七月の十日とをかのひ

                山上臣憶良が松浦の歌三首みつ*

                憶良誠惶頓首謹啓す。憶良聞く、方岳の諸侯、都督の刺使、みな典法に依りて部下を巡行し、其の風俗をる。意内端多く、口外出し難し。謹みて三首の鄙歌を以て、五蔵の欝結を写さむとす。其の歌に曰く、

                0868 松浦がた佐用姫さよひめの子が領巾ひれ振りし山の名のみや聞きつつ居らむ

                0869 足姫たらしひめ神の命の釣らすとみ立たしせりし石を誰見き

                0870 百日ももかしも行かぬ松浦道今日行きて明日はなむを何かさやれる

                天平二年七月の十一日、筑前国司山上憶良謹みてたてまつる。

                領巾麾ひれふりを詠める歌一首*

                大伴佐提比古さでひこ良子いらつこひとり朝命おほみことかがふり、藩国みやつこくに奉使けらる。艤棹ふなよそひしてき、稍蒼波をあつむ。その松浦佐用嬪面さよひめ、此の別れの易きをなげき、の会ひの難きを嘆く。即ち高山の嶺に登りて遥かにさかく船を望む。悵然として腸を断ち、黯然としてたまつ。遂に領巾を脱きてる。傍者流涕かなしまざるはなかりき。かれ此の山を領巾麾の嶺となづくといへり。乃ち作歌うたよみすらく、

                0871 遠つ人松浦佐用姫夫恋つまこひに領巾振りしより負へる山の名

                後の人が追ひてなぞらふる歌一首

                0872 山の名と言ひ継げとかも佐用姫がこの山のに領巾を振りけむ

                いと後の人が追ひて和ふる歌一首

                0873 万代に語り継げとしこのたけに領巾振りけらし松浦佐用姫

                最最いといと後の人が追ひて和ふる歌二首

                0874 海原うなはらの沖行く船を帰れとか領巾振らしけむ松浦佐用姫

                0875 ゆく船を振り留みかね如何ばかりこほしくありけむ松浦佐用姫

                書殿ふみとの餞酒うまのはなむけせる日の倭歌やまとうた四首

                0876 あま飛ぶや鳥にもがもや都まで送り申して飛び帰るもの

                0877 人皆の*うらぶれ居るに立田山御馬みま近づかば忘らしなむか

                0878 言ひつつも後こそ知らめしましくも*さぶしけめやも君いまさずして

                0879 万代にいまし給ひて天の下まをし給はね朝廷みかど去らずて

                敢へて私おもひぶる歌三首

                0880 天ざかるひな五年いつとせ住まひつつ都の風俗てぶり忘らえにけり

                0881 かくのみや息づき居らむあら玉の来経きへゆく年の限り知らずて

                0882 が主の御霊みたま賜ひて春さらば奈良の都に召上めさげ賜はね

                天平二年十二月しはす六日むかのひ、筑前国司山上憶良、謹みてたてまつる。

                三島王の後に追ひてなぞらへたまへる松浦佐用嬪面の歌一首

                0883 音に聞き目にはいまだ見ず佐用姫が領巾振りきとふ君松浦山

                大典おほきふみひと 麻田連陽春あさたのむらじやすが大伴君熊凝くまこりかはりて志を述ぶる歌二首*

                0884 国遠き道の長手をおほほしくふや過ぎなむ言問ことどひもなく

                0885 朝露のやすきが身他国ひとくにに過ぎかてぬかも親の目を欲り

                筑前の国司守みこともちのかみ山上憶良が、熊凝にかはりて其の志を述ぶる歌に敬みてなぞらふるうた六首、また序

                大伴君熊凝は、肥後国ひのみちのしりのくに 益城郡ましきのこほりの人なり。年十八歳とをまりやつ。天平三年みとせといふとし六月みなつき十七日とをかまりなぬかのひを以て、相撲使すまひのつかひ某の国のみこともち官位姓名の従人ともびとと為り、京都みやこ参向まゐのぼる。天為るかも不幸、路に在りて疾を獲、即ち安藝国佐伯郡さいきのこほり高庭たかには駅家うまやにて、身故みまかりぬ。臨終まからむとする時、長歎息なげきて曰く、「伝へ聞く、仮合の身滅び易く、泡沫の命駐め難し。所以に千聖已く去り、百賢留まらず。况乎まして凡愚の微しき者、何ぞも能く逃れ避らむ。但我が老親、みな菴室に在りて、我を侍つこと日を過ぐし、自ら心を傷む恨み有らむ。我を望むこと時を違へり。必ず明を喪ふなみだを致さむ。哀しき哉我が父、痛き哉我が母。一身死に向かふ途をうれへず、唯二親在生の苦を悲しむ。今日長く別れ、何れの世かも観ることを得む」。乃ち歌六首むつみてみまかりぬ。其の歌に曰く、

                0886 打日さす 宮へ上ると たらちしの 母が手離れ    常知らぬ 国の奥処おくかを 百重山 越えて過ぎゆき    いつしかも 都を見むと 思ひつつ 語らひ居れど    おのが身し いたはしければ 玉ほこの 道の隈廻くまみに    草手折り 柴取り敷きて 床じもの うちい伏して    思ひつつ 嘆き伏せらく 国にあらば 父とり見まし    家にあらば 母とり見まし 世間よのなかは かくのみならし    犬じもの 道に伏してや 命過ぎなむ

                0887 たらちしの母が目見ずておほほしくいづち向きてかが別るらむ

                0888 常知らぬ道の長手を暗々くれくれといかにか行かむかりては無しに

                0889 家にありて母が取り見ば慰むる心はあらまし死なば死ぬとも

                0890 出でてゆきし日を数へつつ今日今日とを待たすらむ父母らはも

                0891 一世には二遍ふたたび見えぬ父母を置きてや長くが別れなむ

                貧窮問答の歌一首、また短歌

                0892 風まじり 雨降るの 雨雑り 雪降る夜は    すべもなく 寒くしあれば 堅塩を 取りつづしろひ    糟湯酒かすゆさけ うちすすろひて しはぶかひ 鼻びしびしに    しかとあらぬ 髭掻き撫でて あれをおきて 人はあらじと    誇ろへど 寒くしあれば 麻衾あさふすま 引きかがふり    布肩衣ぬのかたきぬ ありのことごと 着へども 寒き夜すらを    我よりも 貧しき人の 父母は 飢ゑ寒からむ    妻子めこどもは 乞ひて泣くらむ この時は いかにしつつか が世は渡る    天地は 広しといへど が為は くやなりぬる    日月は あかしといへど が為は 照りやたまはぬ    人皆か のみやしかる わくらばに 人とはあるを    人並に あれも作るを 綿も無き 布肩衣の    海松みるのごと わわさがれる かかふのみ 肩に打ち掛け    伏廬ふせいほの 曲廬まげいほの内に 直土ひたつちに 藁解き敷きて    父母は 枕の方に 妻子どもは あとの方に    囲み居て 憂へさまよひ 竈には 火気けぶり吹き立てず    こしきには 蜘蛛の巣かきて いひかしく ことも忘れて    ぬえ鳥の のどよび居るに いとのきて 短き物を    端切ると 云へるが如く 笞杖しもと執る 里長さとをさが声は    寝屋処ねやどまで 来立ち呼ばひぬ かくばかり すべなきものか 世間よのなかの道

                0893 世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば

                0900 富人の家の子どもの着る身なみくたし捨つらむ絹綿らはも*

                0901 荒布あらたへの布衣をだに着せかてにかくや嘆かむ為むすべを無み

                山上憶良頓首謹みて上る。

                好去好来の歌一首、また短歌*

                0894 神代より 言ひ伝てらく そらみつ やまとの国は    皇神すめかみの いつくしき国 言霊ことたまの さきはふ国と    語り継ぎ 言ひ継がひけり 今の世の 人もことごと    目の前に 見たり知りたり 人さはに 満ちてはあれども    高光る 日の朝廷みかど 神ながら 愛での盛りに    天の下 まをしたまひし 家の子と 選びたまひて    大御言 反云、大命オホミコト 戴き持ちて もろこしの 遠き境に    遣はされ 罷りいませ 海原の にも沖にも    神づまり うしはきいます 諸々の 大御神たち    船の舳に 反云、フナノヘニ 導きまをし 天地の 大御神たち    倭の 大国御魂みたま 久かたの あまのみ空ゆ    天翔あまかけり 見渡したまひ 事終り 帰らむ日には    又更に 大御神たち 船の舳に 御手うち掛けて    墨縄を へたるごとく 阿庭可遠志* 値嘉ちかの崎より    大伴の 御津の浜びに ただてに 御船は泊てむ    つつみなく 幸くいまして 早帰りませ

                反し歌

                0895 大伴の御津の松原かき掃きて我立ち待たむ早帰りませ

                0896 難波津に御船泊てぬと聞こえ来ば紐解き放けて立ち走りせむ

                天平五年三月の一日 良宅対面、献ルハ三日ナリ。山上憶良 謹みて上る。 大唐大使もろこしにつかはすつかひのかみの卿の記室。

                沈痾自哀文 山上憶良作

                ひそかにおもひみるに、朝夕山野に佃食する者すら、猶災害無くして世を度ることを得 謂ふは、常に弓箭を執りて六斎を避けず、値ふところの禽獣、大小を論はず、孕めるとまた孕まざると、並皆みな殺し食らふ。此を以て業と為す者をいへり。昼夜河海に釣漁する者すら、尚慶福有りて俗を経ることを全くす 謂ふは、漁夫潜女各勤むるところ有り。男は手に竹竿を把りて、能く波浪の上に釣り、女は腰に鑿と籠を帯び、潜きて深潭の底に採る者をいへり况乎まして我胎生より今日に至るまで、自ら修善の志有り、曽て作悪の心無し 謂ふは、諸悪莫作、諸善奉行の教へを聞くことをいへり。所以に三宝を礼拝し、日として勤まざるは無く 毎日誦経、発露、懺悔せり、百神を敬重し、夜として欠けたること謂ふは、天地諸神等を敬拝するをいへり嗟乎ああやさしき*かも、我いかなる罪を犯してか此の重疾に遭へる 謂ふは、未だ過去に造りし罪か、若しは是現前に犯せる過なるかを知らず、罪過を犯すこと無くは、何ぞ此の病を獲むやといへり。初めて痾ひに沈みしより已来このかた、年月稍多し 謂ふは、十余年を経たるをいへり。是の時年七十有四、鬢髪斑白にして、筋力汪羸わうるい。但に年老いるのみにあらず、復た斯の病を加へたり。諺に曰く、「痛き瘡は塩を灌ぎ、短き材は端を截る」といふは、此の謂なり。四支動かず、百節皆疼み、身体太だ重きこと、猶鈞石を負へるがごとし 二十四銖を一両と為し、十六両を一斤を為し、卅斤を一鈞と為し、四鈞を一石と為す、合せて一百廿斤なり。布を懸けて立たむとすれば、翼折れたる鳥の如く、杖に倚りて歩まむとすれば、跛足あしなへうさぎうまたぐふ。吾、身已く俗を穿ち、心も亦塵につながるるを以て、禍の伏す所、祟の隠るる所を知らむと欲ひ、亀卜の門、巫祝の室に、徃きて問はずといふこと無し。若しは実なれ、若しはいつはりなれ、其の教ふる所に隋ひ、幣帛を奉り、祈祷せずといふこと無し。然れども弥よ苦を増す有り、曽て減差ゆること無し。吾聞く、前代に多く良医有りて、蒼生の病患を救療す。楡柎、扁鵲、華他、秦の和、緩、葛稚川、陶隠居、張仲景等のごときに至りては、皆是世に在りし良医にして、除愈せずといふこと無しと 扁鵲、姓は秦、字は越人、勃海郡の人なり。胸を割きて心腸を採りて之を置き、るるに神薬を以てすれば、即ち寤めて平の如し。華他、字は元化、沛国のセフ*の人なり。若し病結積むすぼ沈重おもれる者有らば、内に在る者は腸を刳きて病を取る。縫ひ復して膏を摩れば、四五日にして。件のくすしを追ひ望むとも、敢へて及ぶ所にあらじ。若し聖医神薬に逢はば、仰ぎ願はくは五蔵を割刳きて百病を抄採さぐり、尋ねて膏盲の奥処あうしよ*いた盲は鬲なり。心の下を膏とす。之を改むることからず。之に達れども及ばず、薬至らず、二竪の逃れ匿りたるを顕さむと 謂ふは、晉の景公疾み、秦のくすし緩視て還りしは、鬼の為に殺さると謂ふべしといへり。命根既く尽き、其の天年を終りてすら、なほ哀しと為す 聖人賢者一切含霊、誰か此の道を免れむ。何ぞ况んや、生録未だ半ばならずして、鬼に枉殺せられ、顏色壮年にして、病に横困せらる者をや。世に在るの大患、孰れか此より甚だしからむ 志恠記に云く、「廣平の前の大守、北海の徐玄方の女、年十八歳にして死ぬ。其の霊、馮馬子に謂ひて曰く、『我が生録を案ふるに、寿よはひ八十余歳なるべし。今妖鬼の為に枉殺されて、已に四年を経たり』と。此に馮馬子に遇ひて、乃ち更活よみがへることを得たり」といふは是なり。内教に云く、「瞻浮州の人は寿百二十歳なり」と。謹みて此の数を案ふるに、うたがたも此を過ぐること得ずといふに非ず。故に寿延経に云はく、「比丘有り、名を難逹と曰ふ。命終の時に臨み、仏に詣でて寿を請ひ、則ち十八年を延べたり」といふ。但善を為す者のみ、天地と相畢はる。其の寿夭は、業報の招く所にして、其の脩短に隋ひて半ばと為る。未だ斯の算に盈たずしてすみやかに死去す。故に未だ半ばならずと曰ふ。任徴君曰く、「病は口より入る。故に君子は其の飲食をつつしむ」と。斯に由りて言はば、人の疾病に遇ふは必も妖鬼にあらず。それ医方諸家の広説、飲食禁忌の厚訓、知ること易く行ふこと難き鈍情の、三つは目に盈ち耳に満つこと由来久し。抱朴子に曰く、「人は但其のまさに死なむ日を知らず、故に憂へざるのみ。若し誠に、羽カク*期を延ぶること得べき者を知らば、必ず之を為さむ」と。此を以て観れば、乃ち知りぬ、我が病は盖しこれ飲食の招く所にして、自ら治むること能はぬものか。帛公略説に曰く、「伏して思ひ自ら励むに、斯の長生を以てす。生は貪るべし、死はおそるべし」と。天地の大徳を生と曰ふ。故に死人は生鼠に及かず。王侯為りと雖も、一日気を絶たば、金を積むこと山の如くありとも、誰か富とむ。威勢海の如くありとも、誰か貴しと為む。遊仙窟に曰く、「九泉下の人、一銭にだにあたひせず」と。孔子の曰く、「天に受けて、変易すべからぬものは形なり、命に受けて請益すべからぬものは寿いのちなり」と 鬼谷先生の相人書に見ゆ。故に生の極りて貴く、命の至りて重きことを知る。言はむと欲へば言窮まる。何を以てか言はむ。おもひはからむと欲へばおもひはかり絶ゆ、何にりてか慮らむ。惟以おもひみれば、人賢愚と無く、世古今と無く、ことごとみな嗟歎なげく。歳月競ひ流れ、昼夜いこはず 曾子曰く、「往きて反らぬものは年なり」と。宣尼の川に臨む歎きも亦是なり。老疾相催し、朝夕侵しさはぐ。一代の歓楽、未だ席前に尽きずして 魏文の時賢を惜しむ詩に曰く、「未だ西花の夜を尽さず、たちまち北芒*の塵となる」と。千年の愁苦、更に坐後を継ぐ 古詩に云く、「人生百に満たず、何ぞ千年の憂を懐かむ」若夫それ群生品類、皆尽くること有る身を以て、ともに窮り無き命を求めずといふこと莫し。所以に道人方士の自ら丹経を負ひ、名山に入りて合薬する者は、性を養ひ神をよろこび、以て長生を求む。抱朴子に曰く、「神農云く、『百病愈えずは、いかにぞ長生を得む』」と。帛公又曰く、「生は好き物なり。死は悪しき物なり」と。若し不幸にして長生を得ずは、猶生涯病患無き者を以て福大と為さむか。今吾病を為し悩を見、臥坐を得ず。東に向かひ西に向かひ、為す所知ること莫し。福無きこと至りて甚しき、すべて我に集まる。人願へば天従ふ。如し実有らば、仰ぎ願はくは、たちまちに此の病を除き、さきはひに平の如くあるを得む。鼠を以て喩とす、豈に愧ぢざらむや 已に上に見ゆ

                俗道仮合即離、去り易く留まり難きを悲歎する詩一首、また序

                竊におもひみるに、釋慈の示教 釋氏慈氏を謂へり、先に三帰 仏法僧に帰依するを謂へり、五戒 謂ふは、一に不殺生、二に不偸盗、三に不邪婬、四に不妄語、五に不飲酒をいへりを開きて遍く法界をおもむけ、周孔の垂訓は、前に三綱 謂ふは、君臣・父子・夫婦をいへり、五教謂ふは、父義・母慈・兄友・弟順・子孝をいへりを張りて、斉しく邦国をすくふ。故に知る、引導は二ありと雖も、悟を得たるは惟一なりと。但おもひみれば世に恒質無し、所以に陵谷更に変る。人に定期無し、所以に寿夭同じからず。撃目の間、百齢已に尽き、申臂しんぴけい千代せんだい亦空し。旦には席上の主となり、夕には泉下の客となる。白馬走り来るとも、黄泉くわうせんは何にか及ばむ。隴上の青松、空しく信釼を懸け、野中の白楊、但悲風に吹かる。是に知る、世俗本より隠遁の室無く、原野唯長夜のうてなのみ有り。先聖已に去り、後賢留まらず。如し贖ひて免るべきこと有らば、古人誰か価金無からむ。未だ独りながらへて遂に世の終を見る者を聞かず、所以に維摩大士は玉体を方丈に疾み、釋迦能仁は金容を双樹に掩へり。内教に曰く、「黒闇の後に来らむを欲せずは、徳天の先に至るに入ること莫かれ」と 徳天は生なり。黒闇は死なり。故に知る、生必ず死有り、死若しねがはざらむは、生まれぬには如かず。况乎まして縦ひ始終の恒数を覚るとも、何にぞ存亡の大期をおもひはからむ。  俗道の変化は撃目の如く  人事の経紀は申臂の如し  空しく浮雲と大虚を行き  心力共に尽きて寄る所無し

                老身重病年を経て辛苦くるしみ、また児等を思ふ歌五首 長一首、短四首

                0897 玉きはる うちの限りは* 平らけく 安くもあらむを    事もなく 喪なくもあらむを 世間よのなかの 憂けく辛けく    いとのきて 痛ききずには 辛塩を 灌ぐちふごとく    ますますも 重き馬荷に 表荷うはに打つと いふことのごと    老いにてある が身の上に 病をら 加へてしあれば    昼はも 嘆かひ暮らし 夜はも 息づき明かし    年長く 病みしわたれば 月重ね 憂へさまよひ    ことことは 死ななとへど 五月蝿さばへなす 騒く子どもを    うつてては 死には知らず 見つつあれば 心は燃えぬ    かにかくに 思ひ煩ひ 音のみし泣かゆ

                反し歌

                0898 慰むる心は無しに雲隠れ鳴きゆく鳥の音のみし泣かゆ

                0899 すべもなく苦しくあれば出で走りななとへど子等にさやりぬ

                0902 水沫みなわなす脆き命も栲縄たくなはの千尋にもがと願ひ暮らしつ

                0903 しづたまき数にもあらぬ身にはあれど千年にもがと思ほゆるかも 去ル神亀二年ニ作メリ。但類ヲ以テノ故ニ更ニ茲ニ載ス

                天平五年六月の丙申ひのえさるつきたち 三日みかのひ 戊戌つちのえいぬ作めり。

                男子をのこ名は古日ふるひを恋ふる歌三首 長一首、短二首

                0904 世の人の 貴み願ふ 七くさの 宝もあれは    何せむに 願ひほりせむ* 我が中の 生れ出でたる    白玉の 我が子古日は 明星あかぼしの 明くるあしたは    敷細しきたへの 床の辺去らず 立てれども 居れども共に    掻き撫でて 言問ひ*たはれ 夕星ゆふづつの 夕べになれば    いざ寝よと 手を携はり 父母も うへはなさかり    三枝さきくさの 中にを寝むと うるはしく しが語らへば    いつしかも 人と成り出でて 悪しけくも 吉けくも見むと    大船の 思ひ頼むに 思はぬに 横様よこしま風の    にはかにも* 覆ひ来たれば 為むすべの たどきを知らに    白妙の たすきを掛け 真澄鏡 手に取り持ちて    天つ神 あふみ 国つ神 伏して額づき    かからずも かかりもよしゑ 天地の 神のまにまと*    立ちあざり 我が祈ひ祷めど しましくも 吉けくはなしに    漸々やうやうに かたちつくほり 朝なな 言ふことやみ    玉きはる 命絶えぬれ 立ち躍り 足すり叫び    伏し仰ぎ 胸打ち嘆き 手に持たる が子飛ばしつ 世間の道

                反し歌

                0905 若ければ道行き知らじまひはせむ下方したへの使負ひて通らせ

                0906 布施置きてあれは祈ひ祷む欺かずただ行きて天道知らしめ*


                  2006-12-9 18:10:36
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                  安倍晴冰
                  帅哥哟,离线,有人找我吗?
                    
                  身份:领民
                  言论:12
                  入籍:2006年11月5日
                  发贴心情

                  訓読万葉集 巻6 ―鹿持雅澄『萬葉集古義』による―


                  巻第六むまきにあたるまき

                  雑歌くさぐさのうた

                  養老やうらう 七年ななとせといふとし 癸亥みづのとゐ 夏五月さつき、芳野の離宮とつみやいでませる時、笠朝臣金村がよめる歌一首ひとつ、また短歌みじかうた

                  0907 たぎの 三船の山に 水枝みづえさし しじに生ひたる    つがの木の いや継ぎ継ぎに 万代に かくし知らさむ    み吉野の 秋津あきづの宮は 神柄かみからか 貴かるらむ    国柄か 見が欲しからむ 山川を あつさやけみ*    大宮と* うべし神代ゆ 定めけらしも

                  かへし歌二首

                  0908 毎年としのはにかくも見てしかみ吉野の清き河内かふちたぎつ白波

                  0909 山高み白木綿花しらゆふはなに落ち激つたぎの河内は見れど飽かぬかも

                  或ル本ノ反シ歌ニ曰ク、

                   0910 神柄か見が欲しからむみ吉野の滝の河内は見れど飽かぬかも

                   0911 み吉野の秋津の川の万代に絶ゆることなくまた還り見む

                   0912 泊瀬女はつせめの造る木綿花み吉野の滝の水沫みなわに咲きにけらずや

                  車持朝臣千年くらもちのあそみちとせがよめる歌一首、また短歌

                  0913 味凝うまこり あやにともしき 鳴神の 音のみ聞きし    み吉野の 真木立つ山ゆ 見くだせば 川の瀬ごとに    明け来れば 朝霧立ち 夕されば かはづ鳴くなり*    紐解かぬ 旅にしあれば のみして 清き川原を 見らくし惜しも

                  反し歌一首

                  0914 たぎの三船の山は見つれども*思ひ忘るる時も日も無し

                  或ル本ノ反シ歌ニ曰ク、

                   0915 千鳥泣くみ吉野川の川音かはとなす止む時なしに思ほゆる君

                   0916 茜さす日並べなくにが恋は吉野の川の霧に立ちつつ

                  右、年月ツマビラカナラズ。但歌類ヲ以テ此ノ次ニ載ス。或ル本ニ云ク、養老七年五月、芳野離宮ニ幸セル時ニ作ム。

                  神亀じむき元年はじめのとし 甲子きのえね 冬十月かみなつき 五日いつかのひ、紀伊国に幸せる時、山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌

                  0917 やすみしし 我ご大王おほきみの 外津宮とつみやと 仕へまつれる    雑賀野さひかぬゆ 背向そがひに見ゆる 沖つ島 清き渚に    風吹けば 白波騒き 潮れば 玉藻刈りつつ    神代より しかぞ貴き 玉津たまづ島山

                  反し歌二首

                  0918 沖つ島荒磯ありその玉藻潮干満ちていかくろひなば思ほえむかも

                  0919 若の浦に潮満ち来れば潟を無み葦辺あしへをさしてたづ鳴き渡る

                  右、年月記サズ。但称ハク玉津島ニ従駕セリキト。因リテ今行幸ノ年月ヲ検注シ、以テ載ス。

                  二年ふたとせといふとし 乙丑きのとのうし夏五月さつき、芳野の離宮に幸せる時、笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌

                  0920 あしひきの み山もさやに 落ちたぎつ 吉野の川の    川の瀬の 浄きを見れば 上辺かみへには 千鳥しば鳴き    下辺しもへには かはづ妻呼ぶ 百敷の 大宮人も    をちこちに しじにしあれば 見るごとに あやにともしみ    玉葛たまかづら 絶ゆることなく 万代よろづよに かくしもがもと    天地あめつちの 神をぞ祈る 畏かれども

                  反し歌二首

                  0921 万代に見とも飽かめやみ吉野のたぎつ河内の大宮所

                  0922 人皆の*命もあれもみ吉野の滝の常磐の常ならぬかも

                  山部宿禰赤人がよめる歌二首、また短歌

                  0923 やすみしし 我ご大王おほきみの 高知らす 吉野の宮は    たたなづく 青垣ごもり 川並の 清き河内かふちそ    春へは 花咲きををり 秋されば 霧立ち渡る    その山の いや益々に この川の 絶ゆること無く    百敷の 大宮人は 常に通はむ

                  反し歌二首

                  0924 み吉野の象山きさやま木末こぬれにはここだも騒く鳥の声かも

                  0925 ぬば玉の夜の更けぬれば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く

                  0926 やすみしし 我ご大王は み吉野の 秋津の小野の    野のには 跡見とみ据ゑ置きて み山には 射目いめ立て渡し    朝狩に しし踏み起し 夕狩に 鳥踏み立て    馬めて 御狩そ立たす 春の茂野に

                  反し歌一首

                  0927 あしひきの山にも野にも御狩人さつ矢挟み騒ぎたり見ゆ

                  右、先後ヲ審ラカニセズ。但便ヲ以テノ故ニ此次ニ載ス。

                  冬十月かみなづき、難波の宮に幸せる時、笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌

                  0928 押し照る 難波の国は 葦垣の 古りにし里と    人皆の 思ひ安みて 連れもなく ありし間に    続麻うみをなす 長柄ながらの宮に 真木柱 太高敷きて    す国を 治めたまへば 沖つ鳥 味經あぢふの原に    物部もののふの 八十伴雄やそとものをは 廬りして 都と成れり 旅にはあれども

                  反し歌二首

                  0929 荒野らに里はあれども大王の敷きす時は都と成りぬ

                  0930 海未通女あまをとめ棚無小舟榜ぎらし旅の宿りに楫の聞こゆ

                  車持朝臣千年がよめる歌一首、また短歌

                  0931 鯨魚いさな取り 浜辺を清み 打ち靡き 生ふる玉藻に    朝凪に 千重ちへ波寄り 夕凪に 五百重いほへ波寄る    沖つ波 いや益々に* つ波の いやしくしくに    月にに 日々に見がほし* 今のみに 飽き足らめやも    白波の い咲きもとへる 住吉すみのえの浜

                  反し歌一首

                  0932 白波の千重に来寄する住吉の岸の黄土生はにふににほひて行かな

                  山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌

                  0933 天地の 遠きが如く 日月ひつきの 長きが如く    押し照る 難波の宮に 我ご大王 国知らすらし    御食みけつ国 日々の御調みつき* 淡路の 野島の海人の    わたの底 沖つ海石いくりに 鮑玉あはびたま さはかづき出    船めて 仕へまつるか 貴し見れば

                  反し歌一首

                  0934 朝凪に楫の聞こゆ御食つ国野島の海人の船にしあるらし

                  三年みとせといふとし 丙寅ひのえとら 秋九月ながつき 十五日とをかまりいつかのひ、播磨国印南野いなみぬいでませる時、笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌

                  0935 名寸隅なきすみの 船瀬ふなせゆ見ゆる 淡路島 松帆の浦に    朝凪に 玉藻刈りつつ 夕凪に 藻塩焼きつつ    海未通女あまをとめ ありとは聞けど 見に行かむ 由のなければ    大夫ますらをの 心は無しに 手弱女たわやめの 思ひたわみて    徘徊たもとほり あれはそ恋ふる 船楫ふねかぢを無み

                  反し歌二首

                  0936 玉藻刈る海未通女ども見に行かむ船楫もがも波高くとも

                  0937 往き還り見とも飽かめや名寸隅の船瀬の浜に頻る白波

                  山部宿禰赤人がよめる歌一首 、また短歌

                  0938 やすみしし 我が大王の 神ながら 高知らせる    印南野の 大海おほうみの原の 荒栲あらたへの 藤江の浦に*    しび釣ると 海人船騒ぎ 塩焼くと 人そさはなる    浦をみ うべも釣はす 浜を吉み 諾も塩焼く    あり通ひ さくもしるし 清き白浜

                  反し歌三首

                  0939 沖つ波辺波静けみいざりすと藤江の浦に船そ騒げる

                  0940 印南野の浅茅押しなべさる夜の長くしあれば家し偲はゆ

                  0941 明石潟潮干の道を明日よりは下笑ましけむ家近づけば

                  辛荷からにの島を過ぐる時、山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌

                  0942 あぢさはふ 妹が目れて 敷細しきたへの 枕も巻かず    桜皮かには巻き 作れる舟に 真かぢき が榜ぎ来れば    淡路の 野島も過ぎ 印南嬬いなみつま 辛荷の島の    島のゆ 我家わぎへを見れば 青山の そことも見えず    白雲も 千重になり来ぬ 榜ぎたむる 浦のことごと    行き隠る 島の崎々 くまも置かず 思ひそが来る 旅の長み

                  反し歌三首

                  0943 玉藻刈る辛荷の島に島する鵜にしもあれや家はざらむ

                  0944 島隠りが榜ぎ来ればともしかも大和へ上る真熊野の船

                  0945 風吹けば波か立たむと伺候さもらひ都太つたの細江に浦隠り居り

                  敏馬みぬめの浦を過ぐる時、山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌

                  0946 御食みけ向ふ 淡路の島に ただ向ふ 敏馬の浦の    沖辺には 深海松ふかみる摘み 浦廻には 名告藻なのりそ苅り    深海松の 見まく欲しけど 名告藻の 己が名惜しみ    間使も 遣らずてあれは 生けるともなし

                  反し歌一首

                  0947 須磨の海人の塩焼き衣の慣れなばか一日も君を忘れて思はむ

                  右ノ作歌、年月詳ラカナラズ。但類ヲ以テノ故ニ此ノ次ニ載ス。

                  四年よとせといふとし 丁卯ひのとのう 春正月むつき諸王おほきみたち諸臣子等おみたちみことのりして、授刀寮に散禁はなちいましめたまへる時によめる歌一首、また短歌

                  0948 真葛まくずふ 春日の山は 打ち靡く 春さりゆくと    山のに 霞たな引き 高圓たかまとに 鴬鳴きぬ    物部もののふの 八十伴男やそとものをは 雁が音の 来継ぎこの頃    かく継ぎて 常にありせば 友めて 遊ばむものを    馬並めて 行かまし里を 待ちがてに がせし春を    かけまくも あやに畏し 言はまくも 忌々ゆゆしからむと    あらかじめ かねて知りせば 千鳥鳴く その佐保川に    いそに生ふる 菅の根採りて しぬふ草 祓ひてましを    行く水に みそぎてましを 大王の 命畏み    百敷の 大宮人の 玉ほこの 道にも出でず 恋ふるこの頃

                  反し歌一首

                  0949 梅柳過ぐらく惜しみ佐保の内に遊びし事を宮もとどろに

                  右、神亀四年正月、数王子マタ諸臣子等、春日野ニ集ヒ、打毬ノ楽ヲ作ス。其ノ日、忽チニ天陰リ、雨フリカミナリイナビカリス。此ノ時宮中ニ侍従マタ侍衛無シ。勅シテ刑罰ニ行ヒ、皆授刀寮ニ散禁シテ、妄リニ道路ニ出ヅルコトヲ得ザラシメタマフ。時ニ悒憤シテ、即チ斯ノ歌ヲ作ム。作者ハ詳ラカナラズ。

                  五年いつとせといふとし戊辰つちのえたつ、難波の宮に幸せる時よめる歌四首

                  0950 大王の境ひたまふと山守やまもり据ゑるちふ山に入らずはやまじ

                  0951 見渡せば近きものからいそ隠りかがよふ玉を取らずはやまじ

                  0952 韓衣からころも着奈良の里の*松に玉をし付けむき人もがも

                  0953 さ牡鹿の鳴くなる山を越え行かむ日だにや君にはた逢はざらむ

                  右、笠朝臣金村ガ歌ノ中ニ出ヅ。或ハ云ク、車持朝臣千年作ムト。

                  膳王かしはでのおほきみの歌一首

                  0954 あしたには海辺にあさりし夕されば大和へ越ゆる雁し羨しも

                  右ノ作歌ノ年ハ審ラカナラズ。但歌類ヲ以テ便チ此ノ次ニ載ス。

                  太宰少弐おほみこともちのすなきすけ石川朝臣足人たりひとが歌一首

                  0955 刺竹さすだけの大宮人の家と住む佐保の山をば思ふやも君

                  かみ大伴卿おほとものまへつきみこたふる歌一首

                  0956 やすみしし我が大王の食す国は大和もここもおやじとそ

                  冬十一月しもつき、太宰の官人つかさひと等、香椎の廟ををろがみ奉り、へて退帰まかれる時、馬を香椎の浦にとどめて、おのもおのもおもひを述べてよめる歌

                  かみ大伴のまへつきみの歌一首

                  0957 いざ子ども香椎の潟に白妙の袖さへ濡れて朝菜摘みてむ

                  大弐おほきすけ小野老朝臣が歌一首

                  0958 時つ風吹くべくなりぬ香椎潟潮干の浦に玉藻刈りてな

                  豊前守とよくにのみちのくちのかみ宇努首男人うぬのおびとをひとが歌一首

                  0959 往き還り常にが見し香椎潟明日ゆ後には見むよしもなし

                  帥大伴の卿の芳野の離宮とつみや遥思しぬひてよみたまへる歌一首

                  0960 隼人はやひとの瀬戸のいはほも鮎走る吉野の滝になほしかずけり

                  帥大伴の卿の、次田すきた温泉に宿りて、たづを聞きてよみたまへる歌一首

                  0961 湯の原に鳴く葦鶴はが如く妹に恋ふれや時わかず鳴く

                  天平てむひやう二年庚午かのえうまみことのりして駿馬ときうまえらぶ使大伴道足みちたり宿禰を遣はせる時の歌一首

                  0962 奥山の岩に苔むし畏くも問ひ賜ふかも思ひあへなくに

                  右、勅使みかどつかひ大伴道足宿禰を帥の家にあへす。此の日衆諸を会集へ、駅使はゆまづかひ葛井連廣成を相誘ひ、歌詞を作むべしと言ふ。登時すなはち廣成声に応へて、此の歌をうたへりき。

                  冬十一月しもつき大伴坂上郎女が帥の家より上道みちだちして、筑前国宗形郡名兒山を超ゆる時よめる歌一首

                  0963 大汝おほなむぢ 少彦名すくなびこなの 神こそは 名付けそめけめ    名のみを 名兒山と負ひて が恋の 千重の一重も 慰めなくに

                  おやじ坂上郎女がみやこのぼ海路うみつぢにて浜の貝を見てよめる歌一首

                  0964 我が背子に恋ふれば苦しいとまあらば拾ひて行かむ恋忘れ貝

                  冬十二月しはす太宰帥おほみこともちのかみ大伴の卿の京に上りたまふ時、娘子をとめがよめる歌二首

                  0965 おほならばかもかもせむを畏みと振りたき袖をしぬひてあるかも

                  0966 大和道は雲隠れたりしかれどもが振る袖を無礼なめしとふな

                  右、太宰帥大伴の卿の大納言に兼任され、京にのぼらむとして上道みちだちしたまふ。此の日水城に馬駐め、府家を顧み望む。時に卿を送る府吏つかさひとの中に遊行女婦うかれめあり。其の兒島こしまと曰ふ。是に娘子、此の別れ易きを傷み、彼の会ひ難きを嘆き、涕を拭ひて自ら袖を振る歌をうたふ。

                  大納言おほきものまをすつかさ大伴の卿の和へたまへる歌二首

                  0967 大和道の吉備の兒島を過ぎて行かば筑紫の子島思ほえむかも

                  0968 大夫ますらをと思へるあれ水茎みづくき水城みづきの上に涙のごはむ

                  三年辛未かのとひつじ、大納言大伴の卿の、寧樂の家に在りて故郷ふるさとしぬひてよみたまへる歌二首

                  0969 しましくも行きて見てしか神名備かむなびの淵はあせにて瀬にか成るらむ

                  0970 群玉の*栗栖くるすの小野の萩が花散らむ時にし行きて手向けむ

                  四年壬申みづのえさる藤原宇合の卿の西海道にしのうみつぢの節度使に遣はさるる時、高橋連蟲麻呂がよめる歌一首、また短歌

                  0971 白雲の 龍田の山の 露霜に 色づく時に    打ち越えて 旅行く君は 五百重山 い行きさくみ    あた守る 筑紫に至り 山のそき 野の極せと    伴のを あがち遣はし 山彦の 答へむ極み    蟾蜍たにぐくの さ渡る極み 国形を したまひて    冬籠り 春さりゆかば 飛ぶ鳥の 早還り来ね*    龍田道の 岡辺の道に 紅躑躅につつじの にほはむ時の    桜花 咲きなむ時に 山たづの 迎へ参ゐ出む 君が来まさば

                  反し歌一首

                  0972 千万ちよろづいくさなりとも言挙げせずりてぬべきをとことぞ

                  天皇すめらみことの節度使の卿等まへつきみたちおほみき賜へる御歌おほみうた一首、また短歌

                  0973 す国の 遠の朝廷みかどに いましらし かく罷りなば    平けく あれは遊ばむ 手抱てうだきて あれはいまさむ    天皇すめらが うづの御手もち 掻き撫でそ ぎたまふ    打ち撫でそ 労ぎたまふ 還り来む日 相飲まむそ この豊御酒とよみき

                  反し歌一首

                  0974 大夫ますらをの行くちふ道そおほろかに思ひて行くな大夫の伴

                  右ノ御歌ハ、或ハ云ク、太上天皇ノ御製ナリト。

                  中納言なかのものまをすつかさ安倍廣庭の卿の歌一首

                  0975 かくしつつ在らくをみぞ玉きはる短き命を長く欲りする

                  五年癸酉みづのととり、草香山を超ゆる時、神社忌寸老麿かみこそのいみきおゆまろがよめる歌二首

                  0976 難波潟潮干の名残よく見てむ家なる妹が待ち問はむため

                  0977 直越ただこえのこの道にして押し照るや難波の海と名付けけらしも


                    2006-12-9 18:14:04
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                    安倍晴冰
                    帅哥哟,离线,有人找我吗?
                      
                    身份:领民
                    言论:12
                    入籍:2006年11月5日
                    发贴心情

                    山上臣憶良沈痾やみこやれる時の歌一首

                    0978 をとこやも空しかるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして

                    右ノ一首ハ、山上憶良臣ガ沈痾ル時、藤原朝臣八束、河邊朝臣東人ヲシテ、疾メル状ヲ問ハシム。是ニ憶良臣、報フル語已ニ畢リ、須ク有リテ涕ヲ拭ヒ、悲シミ嘆キテ此ノ歌ヲ口吟ウタヒキ。

                    大伴坂上郎女が、をひ家持が佐保より西のいへ還帰かへるときにおくれる歌一首

                    0979 我が背子がる衣薄し佐保風はいたくな吹きそ家に至るまで

                    安倍朝臣蟲麻呂が月の歌一首

                    0980 雨隠り三笠の山を高みかも月の出で来ぬ夜はくだちつつ

                    大伴坂上郎女が月の歌三首

                    0981 獵高かりたかの高圓山を高みかも出で来む月の遅く照るらむ

                    0982 ぬば玉の夜霧の立ちておほほしく照れる月夜の見れば悲しさ

                    0983 山の端の細愛壮士ささらえをとこ天の原渡る光見らくしよしも

                    豊前国とよくにのみちのくちの娘子が月の歌一首 娘子字ヲ大宅ト曰フ。姓氏詳ラカナラズ。

                    0984 雲隠り行方を無みとが恋ふる月をや君が見まく欲りする

                    湯原王の月の歌二首

                    0985 あめにます月読壮士つくよみをとこまひはせむ今宵の長さ五百夜いほよ継ぎこそ

                    0986 しきやし間近き里の君来むと言ふしるしにかも*月の照りたる

                    藤原八束朝臣が月の歌一首

                    0987 待ちがてにがする月は妹がる三笠の山にこもりたりけり

                    市原王の宴に父安貴王きませる歌一首

                    0988 春草は後は散り易し巌なす常盤にいませ貴き吾君あきみ

                    湯原王の打酒さかほかひ*の歌一首

                    0989 焼太刀のかど打ち放ち大夫の寿豊御酒とよみきあれ酔ひにけり

                    紀朝臣鹿人かひと跡見とみ茂岡しげをかの松の樹の歌一首

                    0990 茂岡に神さび立ちて栄えたる千代松の樹の歳の知らなく 同じ鹿人が泊瀬河のほとりに至りてよめる歌一首

                    0991 石走いはばしたぎち流るる泊瀬川絶ゆること無くまたも来て見む

                    大伴坂上郎女が元興寺の里を詠める歌一首

                    0992 古郷の飛鳥はあれど青丹よし奈良の明日香を見らくしよしも

                    同じ坂上郎女が初月みかつきの歌一首

                    0993 月立ちてただ三日月の眉根まよね掻き長く恋ひし君に逢へるかも

                    大伴宿禰家持が初月の歌一首

                    0994 振りけて三日月見れば一目見し人の眉引まよびき思ほゆるかも

                    大伴坂上郎女が親族うがらと宴せる歌一首

                    0995 かくしつつ遊び飲みこそ草木すら春は咲きつつ秋は散りぬる

                    六年むとせといふとし甲戌きのえいぬ海犬養宿禰あまのいぬかひのすくね岡麿がみことのりうけたまはりてよめる歌一首

                    0996 御民あれ生けるしるしあり天地の栄ゆる時に遭へらく思へば

                    春三月やよひ、難波の宮に幸せる時の歌六首

                    0997 住吉すみのえ粉浜こばまの蜆開けも見ずこもりのみやも恋ひ渡りなむ

                    右の一首ひとうたは、作者よみひと未詳しらず

                    0998 まよのごと雲居に見ゆる阿波の山懸けて榜ぐ舟とまり知らずも

                    右の一首は、船王ふねのおほきみのよみたまへる。

                    0999 茅渟廻ちぬみより雨そ降り来る四極しはつの海人綱手干したり濡れあへむかも

                    右の一首は、住吉の浜に遊覧あそびて、宮に還りたまへる時の道にて、守部王もりべのおほきみの詔をうけたまはりてよみたまへる歌。

                    1000 児らがあらば二人聞かむを沖つ洲に鳴くなるたづの暁の声

                    右の一首は、守部王のよみたまへる。

                    1001 大夫ますらをは御狩に立たし娘子をとめらは赤裳裾引く清き浜びを

                    右の一首は、山部宿禰赤人がよめる。

                    1002 馬の歩み抑へ留めよ住吉の岸の黄土はにふににほひて行かむ

                    右の一首は、安倍朝臣豊継がよめる。

                    筑後守つくしのみちのしりのかみ 外従五位とのひろきいつつのくらゐ しもつしな葛井連大成が海人の釣船を遥見みさけてよめる歌一首

                    1003 海女をとめ玉求むらし沖つ波かしこき海に船出せり見ゆ

                    按作村主益人くらつくりのすくりますひとが歌一首

                    1004 思ほえず来ませる君を佐保川のかはづ聞かせず帰しつるかも

                    右、内匠大属按作村主益人、聊カ飲饌ヲ設ケ、以テ長官佐為王ヲ饗ス。未ダ日クタツニ及バズシテ王既ク還帰カヘル。時ニ益人、カズシテ帰ルコトヲ怜惜ヲシミテ、仍チ此ノ歌ヲ作ム。

                    八年やとせといふとし丙子ひのえね夏六月みなつき、芳野の離宮とつみやいでませる時、山部宿禰赤人が詔をうけたまはりてよめる歌一首、また短歌

                    1005 やすみしし 我が大王の したまふ 吉野の宮は    山だかみ 雲そ棚引く 川速み 瀬のそ清き    神さびて 見れば貴く よろしなへ 見ればさやけし    この山の 尽きばのみこそ この川の 絶えばのみこそ    百敷の 大宮所 止む時もあらめ

                    反し歌一首

                    1006 神代より吉野の宮にあり通ひ高知らせるは山川を

                    市原王の独り子を悲しみたまへる歌一首

                    1007 言問はぬ木すらいもありちふをただ独り子にあるが苦しさ

                    忌部首黒麿いみべのおびとくろまろが友の来ること遅きを恨むる歌一首

                    1008 山の端にいさよふ月の出でむかとが待つ君が夜は降ちつつ

                    冬十一月しもつき左大弁ひだりのおほきおほともひ葛城王かづらきのおほきみたちに、橘のうぢ賜姓たまへる時、みよみませる御製歌おほみうた一首

                    1009 橘は実さへ花さへその葉さへに霜降れどいや常葉とこはの木

                    右、冬十一月九日、従三位葛城王、従四位上佐為王等、皇族ノ高名ヲ辞シ、外家ノ橘姓ヲ賜フコト已ニ訖リヌ。時ニ太上天皇、皇后、共ニ皇后宮ニ在シテ、肆宴ヲ為シ、即チ橘ヲク歌ヲ御製シ、マタ御酒ヲ宿禰等ニ賜フ。或ハ云ク、此ノ歌一首、太上天皇ノ御歌ナリ。但シ天皇皇后ノ御歌ハ各一首有リ。其ノ歌遺落シテ探リ求ムルコトヲ得ズ。今案内ヲ検フルニ、八年十一月九日、葛城王等橘宿禰ノ姓ヲ願ヒ表ヲ上ル。十七日ヲ以テ表ニ依リ乞ヒ橘宿禰ヲ賜フト。

                    橘宿禰奈良麿が詔を応りてよめる歌一首

                    1010 奥山の真木の葉しのぎ降る雪の降りは増すともつちに落ちめやも

                    冬十二月しはす十二日とをまりふつかのひ歌舞所うたまひどころ*諸王臣子等おほきみまへつきみたち、葛井連廣成が家に集ひて宴せる歌二首

                    比来古*盛ニ興リテ、古歳ヤヤレヌ。理、共ニ古情ヲ尽シテ、同ニ此ノ歌ヲ唄フベシ。故ニ此ノ趣ニ擬ヘテ、スナハチ古曲二節ヲ献ル。風流意気ノ士、シ此ノ集ノ中ニ在ラバ、発念ヲ争ヒ、心々ニ古体ニ和ヘヨ。

                    1011 我が屋戸の梅咲きたりと告げ遣らばちふに似たり散りぬともよし

                    1012 春さればををりに撓り鴬の鳴く山斎しまそ止まず通はせ

                    九年ここのとせといふとし 丁丑ひのとうし春正月むつき橘少卿たちばなのおとまへつきみ、また諸大夫等まへつきみたちの、弾正尹ただすつかさのかみ門部王の家に集ひて宴せる歌二首

                    1013 あらかじめ君来まさむと知らませば門に屋戸にも玉敷かましを

                    右の一首は、主人あろじ門部王 後、大原真人氏ヲ賜姓フ。

                    1014 一昨日をとつひも昨日も今日も見つれども明日さへ見まく欲しき君かも

                    右の一首は、橘宿禰文成あやなり 少卿ノ子ナリ。

                    榎井王の後に追ひて和へたまへる歌一首

                    1015 玉敷きて待たえしよりは*たけそかに来たる今宵し楽しく思ほゆ

                    春二月きさらき、諸大夫等、左少弁ひだりのすなきおほともひ巨勢宿奈麻呂朝臣の家に集ひて宴せる歌一首

                    1016 海原の遠き渡りを遊士みやびをの遊ぶを見むとなづさひそ来し

                    右ノ一首ハ、白紙ニ書キテ屋ノ壁ニ懸ケ著ケタリ。題シテ云ク、蓬莱ノ仙媛ノ作メル。謾ニ風流秀才ノ士ノ為ナリ*。斯凡客ノ望ミ見ル所ニアラズカト。

                    夏四月うつき、大伴坂上郎女が賀茂の神社かみのやしろをろがみ奉る時、相坂山を超え、近江の海を望見みさけて、晩頭ゆふへに還り来たるときよめる歌一首

                    1017 木綿畳ゆふたたみ手向たむけの山を今日越えていづれの野辺に廬りせむ吾等あれ

                    十年ととせといふとし戊寅つちのえとら元興寺ぐわむこうじほうしが自ら嘆く歌一首

                    1018 白珠は人に知らえず知らずともよし知らずともあれし知れらば知らずともよし

                    右ノ一首ハ、或ハ云ク、元興寺ノ僧、独リ覚リテ智多ケレドモ、顕聞スルトコロ有ラズ、衆諸狎侮アナヅリキ。此ニ因リテ僧此ノ歌ヲミ、自ラ身ノ才ヲ嘆ク。

                    石上乙麿いそのかみのおとまろまへつきみの、土佐の国にはなたえし時の歌三首、また短歌

                    1019 石上いそのかみ 布留ふるみことは 手弱女たわやめの さどひによりて    馬じもの 縄取り付け ししじもの 弓矢かくみて    大王おほきみの みことかしこみ 天ざかる 夷辺ひなへまかる    古衣ふるころも 真土の山ゆ 帰り来ぬかも

                    1020 大王の 命畏み さし並の 国に出でます    はしきやし 我が背の君を

                    (1021)かけまくも 忌々ゆゆし畏し 住吉すみのえの 現人神あらひとかみ    船のに うしはきたまひ 着きたまはむ 島の崎々    依りたまはむ 磯の崎々 荒き波 風に遇はせず    つつみなく み病あらず すむやけく 帰したまはね もとの国辺に

                    右の二首は、石上の卿のがよめる。*

                    1022 父君に あれ愛子まなごぞ 母刀自おもとじに あれは愛子ぞ    参上まゐのぼり 八十氏人やそうぢひとの 手向する かしこの坂に    ぬさまつり あれはぞ退まか* 遠き土佐道を

                    反し歌一首

                    1023 大崎の神の小浜をはまは狭けども百船人ももふなひとも過ぐと言はなくに

                    右の二首は、石上の卿のよめる。*

                    秋八月はつき二十日はつかのひ右大臣みぎのおほまへつきみ橘の家に宴せる歌四首

                    1024 長門なる沖つ借島奥まへてふ君は千年にもがも

                    右の一歌は、長門守巨曽倍對馬こそべのつしま朝臣。

                    1025 奥まへてあれを思へる我が背子は千年五百年いほとせありこせぬかも

                    右の一歌は、右大臣の和へたまへる歌。

                    1026 百敷の大宮人は今日もかも暇を無みと里に出でざらむ

                    右の一首は、右大臣の伝へりたまはく、もと豊島采女てしまのうねべが歌。

                    1027 橘の本に道踏み八衢やちまたに物をそ思ふ人に知らえず

                    右の一歌は、右大弁みぎのおほきおほともひ高橋安麿の卿語りけらく、故の豊島采女がよめるなり。但シ或ル本ニ云ク、三方沙彌、妻ノ苑臣ヲ恋ヒテ作メル歌ナリト。然ラバ則チ、豊島采女、当時当所ニ此ノ歌ヲ口吟ウタヘルカ。

                    十一年ととせまりひととせといふとし 己卯つちのとう天皇すめらみこと高圓の野に遊猟みかりしたまへる時、小さきけだもの堵里さとうちで走る。是に勇士ますらを適値ひて生きながららえぬ。即ち此の獣を御在所みもとに献上るとき副ふる歌一首 獣ノ名ハ俗ニ牟射佐妣ムササビト曰フ

                    1028 大夫ますらをの高圓山に迫めたれば里にるむささびそこれ

                    右の一歌は、大伴坂上郎女がよめる。但シ奏ヲ逕ズシテ小獣死シ斃レヌ。此ニ因リテ献歌停ム。

                    十二年ととせまりふたとせといふとし 庚辰かのえたつ 冬十月かみなつき太宰少弐おほみこともちのすなきすけ藤原朝臣廣嗣反謀みかどかたぶけむとしていくさおこせるに、伊勢国にいでませる時、河口の行宮かりみやにて内舎人うちとねり大伴宿禰家持がよめる歌一首

                    1029 河口かはくちの野辺に廬りて夜のれば妹が手本し思ほゆるかも

                    天皇のみよみませる御製歌おほみうた一首

                    1030 妹に恋ひが松原よ*見渡せば潮干の潟にたづ鳴き渡る*

                    丹比屋主真人たぢひのいへぬしのまひとが歌一首

                    1031 後れにし人をしぬはく四泥しでの崎木綿取りでて往かむとそ*

                    独り行宮におくれゐ*大伴宿禰家持がよめる歌二首

                    1032 天皇おほきみ行幸いでましのまに我妹子わぎもこが手枕巻かず月そ経にける

                    1033 御食みけつ国志摩の海人あまならし真熊野の小船をぶねに乗りて沖へ榜ぐ見ゆ

                    美濃国多藝たぎの行宮にて、大伴宿禰東人がよめる歌一首

                    1034 いにしへよ人の言ひる老人の変若つちふ水そ名に負ふ滝の瀬

                    大伴宿禰家持がよめる歌一首

                    1035 田跡川たどかはたぎを清みか古ゆ宮仕へけむ多藝の野の

                    不破の行宮にて、大伴宿禰家持がよめる歌一首

                    1036 関なくば帰りにだにも打ち行きて妹が手枕巻きて寝ましを

                    十五年ととせまりいつとせといふとし 癸未みづのとひつじ秋八月はつき十六日とをかまりむかのひ、内舎人大伴宿禰家持が久邇くにの京を讃へてよめる歌一首

                    1037 今造る久邇の都は山河のさやけき見ればうべ知らすらし

                    高丘河内連たかをかのかふちのむらじが歌二首

                    1038 故郷は遠くもあらず一重山越ゆるがからに思ひぞがせし

                    1039 我が背子と二人し居れば山高み里には月は照らずともよし

                    安積親王左少弁ひだりのすなきおほともひ藤原八束朝臣が家に宴したまふ日、内舎人大伴宿禰家持がよめる歌一首

                    1040 久かたの雨は降りしけ思ふ子が屋戸に今夜は明かしてゆかむ

                    十六年ととせまりむとせといふとし 甲申きのえさる春正月むつき五日いつかのひ諸卿大夫まへつきみたち安倍蟲麻呂朝臣が家に集ひて宴せる歌一首

                    1041 我が屋戸の君松の木に降る雪の行きには行かじ待ちにし待たむ

                    同じ月十一日とをかまりひとひ活道いくぢの岡に登り、一株松ひとつまつもとに集ひてうたげせる歌二首

                    1042 一つ松幾代か経ぬる吹く風の声のめるは年深みかも

                    右の一首は、市原王のよみたまへる。

                    1043 玉きはる命は知らず松が枝を結ぶ心は長くとそ

                    右の一首は、大伴宿禰家持がよめる。

                    寧樂ならみやこ荒墟あれたる傷惜をしみてよめる歌三首 作者不審

                    1044 紅に深く染みにし心かも奈良の都に年の経ぬべき

                    1045 世の中を常無きものと今ぞ知る奈良の都のうつろふ見れば

                    1046 石綱いはつなのまた変若ちかへり青丹よし奈良の都をまた見なむかも

                    寧樂の京の故郷あれたるを悲しみよめる歌一首、また短歌

                    1047 やすみしし 我が大王おほきみの 高敷かす 大和の国は    皇祖すめろきの 神の御代より 敷きませる 国にしあれば    れまさむ 御子の継ぎ継ぎ 天の下 知ろしめさむと    八百万やほよろづ 千年を兼ねて 定めけむ 奈良の都は    陽炎かぎろひの 春にしなれば 春日山 御笠の野辺に    桜花 木のくれ隠り 貌鳥は 間なくしば鳴く    露霜の 秋さり来れば 射鉤いかひ山 飛火とぶひたけに    萩のを しがらみ散らし さ牡鹿は 妻呼びとよめ    山見れば 山も見が欲し 里見れば 里も住みよし    物部もののふの 八十伴の男の うちはへて 里並みしけば*    天地の 寄り合ひの極み 万代に 栄えゆかむと    思ひにし 大宮すらを 頼めりし 奈良の都を    新代あらたよの 事にしあれば 大王の 引きのまにまに    春花の うつろひ変り 群鳥の 朝立ち行けば    刺竹さすだけの 大宮人の 踏み平し 通ひし道は    馬も行かず 人も行かねば 荒れにけるかも

                    反し歌二首

                    1048 建ち替り古き都となりぬれば道の芝草長く生ひにけり

                    1049 つきにし奈良の都の荒れゆけば出で立つごとに嘆きし増さる

                    久邇くに新京にひみやこを讃ふる歌二首、また短歌

                    1050 あきつ神 我が大王の 天の下 八島の内に    国はしも 多くあれども 里はしも さはにあれども    山並の よろしき国と 川並の 立ち合ふ里と    山背の 鹿背かせ山のに 宮柱 太敷きまつり    高知らす 布當ふたぎの宮は 川近み 瀬のぞ清き    山近み 鳥がとよむ 秋されば 山もとどろに    さ牡鹿は 妻呼び響め 春されば 岡辺もしじに    巌には 花咲きををり あなおもしろ 布當の原    いとたふと 大宮所 うべしこそ 我が大王は    君のまに 聞かしたまひて 刺竹の 大宮ここと 定めけらしも

                    反し歌二首

                    1051 三香みかの原布當の野辺を清みこそ大宮所定めけらしも

                    1052 山高く川の瀬清し百代までかむしみゆかむ大宮所

                    1053 吾が大王 神の命の 高知らす 布當の宮は    百木盛る* 山は木高こだかし 落ちたぎつ 瀬のも清し    鴬の 来鳴く春へは 巌には 山下光り    錦なす 花咲きををり さ牡鹿の 妻呼ぶ秋は    天霧あまぎらふ 時雨をいたみ さ丹頬にづらふ 黄葉もみち散りつつ    八千年やちとせに れ付かしつつ 天の下 知ろしめさむと    百代にも 変るべからぬ 大宮所

                    反し歌五首

                    1054 泉川行く瀬の水の絶えばこそ大宮所移ろひ行かめ

                    1055 布當山山並見れば百代にも変るべからぬ大宮所

                    1056 娘子らが続麻うみを懸くちふ鹿背の山時しゆければ都となりぬ

                    1057 鹿背の山木立を繁み朝さらず来鳴き響もす鴬の声

                    1058 狛山に鳴く霍公鳥ほととぎす泉川渡りを遠みここに通はず

                    春日はるのころ三香原みかのはらの都の荒墟あれたる悲傷かなしみよめる歌一首、また短歌

                    1059 三香の原 久邇の都は 山高み 川の瀬清み    在りよしと 人は言へども 住みよしと あれは思へど    古りにし 里にしあれば 国見れど 人も通はず    里見れば 家も荒れたり しけやし かくありけるか    三諸みもろつく 鹿背山の際に 咲く花の 色めづらしく    百鳥の 声なつかしき ありが欲し 住みよき里の 荒るらく惜しも

                    反し歌二首

                    1060 三香の原久邇の都は荒れにけり大宮人のうつろひぬれば

                    1061 咲く花の色は変らず百敷の大宮人ぞたち変りける

                    難波の宮にてよめる歌一首、また短歌

                    1062 やすみしし 我が大王の あり通ふ 難波の宮は    鯨魚いさな取り 海片付きて 玉ひりふ 浜辺を近み    朝羽振る 波の騒き 夕凪に 楫の音聞こゆ    暁の 寝覚に聞けば 海近み* 潮干のむた    浦洲には 千鳥妻呼び 葦辺には たづが音響む    見る人の 語りにすれば 聞く人の 見まく欲りする    御食みけ向ふ 味経あぢふの宮は 見れど飽かぬかも

                    反し歌二首

                    1063 あり通ふ難波の宮は海近み海人娘子らが乗れる船見ゆ

                    1064 潮干れば葦辺に騒く白鶴あしたづの妻呼ぶ声は宮もとどろに

                    敏馬みぬめの浦を過ぐる時よめる歌一首、また短歌

                    1065 八千桙やちほこの 神の御代より 百船ももふねの 泊つる泊と    八島国 百船人ももふなひとの 定めてし 敏馬の浦は    朝風に 浦波騒き 夕波に 玉藻は来寄る    白沙しらまなご 清き浜辺は 往き還り 見れども飽かず    諾しこそ 見る人毎に 語り継ぎ しぬひけらしき    百代経て 偲はえゆかむ 清き白浜

                    反し歌二首

                    1066 真澄鏡敏馬の浦は百船の過ぎて行くべき浜ならなくに

                    1067 浜清み浦うるはしみ神代より千船の泊つる大和太おほわだの浜

                    右ノ二十一首ハ、田邊福麻呂ガ歌集ノ中ニ出ヅ。


                      2006-12-9 18:38:45
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                      真田豪
                      帅哥哟,离线,有人找我吗?
                        
                      身份:领民
                      言论:4074
                      入籍:2004年4月22日
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                      不全~~~现在已经有好几种中文译本了~~~

                      色即是空,空即是色。

                        2006-12-11 14:22:55
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                        安倍晴冰
                        帅哥哟,离线,有人找我吗?
                          
                        身份:领民
                        言论:12
                        入籍:2006年11月5日
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                          2006-12-15 19:55:26
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